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『ティシティア』  巫女の名を呼ぶ低い声を、少女は『群青』の神子の腕の中で思い出す。 『神子に同情するな。情けをかけるな。所詮は既に死んだ身の連中だ』  そう。  アペルピスィアに呼ばれる神子は、無作為に選んだ惑星に小惑星を落とし、その衝撃で魂だけを引き寄せ、元の形を再生した姿。切っても血は流れず、星屑と化して、他の神子の力となるだけの存在。 『アペルピスィア』  今回召喚の対象とした星では、この世界の名は『絶望』という意味を持つという。だが、この世界の言葉では、『アペルピスィア』とは『希望』だ。  この世界を救うために他の惑星に星を降らせ、滅ぼす。その因果を断ち切るためにも、この神子達には勝ち続けてもらわねばならない。  彼女達が真実を知った時、どんな顔をするか。ティシティアにはわかっている。  それでも。 (それでもわたくしは、この方々をただの手駒と思いたくはありません)  これから彼女達に訪れる試練。それを見届けるのが、星を降らせた自分達巫女の責任だ。  ティシティアはその覚悟を唇と共に噛みしめ。  きゅ、っと、神子の服を強く握りしめる。  その下では心臓が鼓動を刻んでいるというのに、もう生きてはいない、彼女の心音を確かめるかのように。
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