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広報担当者ローレンシアによるイントロダクション
いかめしい扉を開くと殺気がムッと湧いて出た。分厚い氷に埋もれた要塞の最深部。太陽の光はもちろんミリ波すら届かぬ世界に酷く冷たい熱意が渦巻いている。コートの襟をそばだてると場違いな服装の女が出てきた。いや、そもそも人間なのだろうか。蝶の羽を背負って肌もあらわな格好をしている。
差し伸べられた手を握るわけにはいかない。
「何だね君は。まずそのふざけた扮装を解いてもらおうか。挨拶はそれからだ」
初対面の相手に説教するのはなかなか勇気が要る。すると彼女は申し訳ございません、と頭を下げ、コートを羽織った。
「だいたい私は娑婆に舞い戻ったばかりなのだ。いくら講義を受けているとはいえ、見ると聞くとでは大違いだよ。もう一度、死にたいぐらいだ」
忌憚なき意見を述べると彼女は涙ぐんだ。「醜い姿で不快な思いをさせて…」
その潤んだ瞳を見て私は我に返った。無礼者は自分ではないのか。専門誌の編集者として数え切れないほど人と接してきた。その経験が私を叱責している。
「すまない。エンケラドゥス休戦条約だったか…。本物の”虚構世界人”と形而下で会話するなど、平成時代生まれの私には想像を絶する出来事なのでね」
数々の非礼を詫びると彼女はかしこまった。
「わたしは軍広報部の妖精、ローレンシア上尉です。戦前に没せられた方はみなさんそうおっしゃいます。だからこそ、曇りのない眼で歴史を見ていただきたいのです、。これから多彩な広報写真を用いていろいろな活動内容を紹介していきますね」
広報官がくれた資料には表題がついている。
プロジェクトローレンシア・イエローブックリポートVOL49~戦略創造軍特記事項
◇ ◇ ◇ ◇
戦略創造軍 沿革
「戦略創造軍」は国連の平和維持活動から着想を得ています。
警察軍をベースに潤沢な予算配分でチートした平和執行部隊。必要とあらば開発途上の試作兵器すら徴発し、凶悪な抵抗勢力を実力で排除し、平時には工兵部隊がインフラ基盤の整備に従事したり、兵器工廠で民需品を生産し、産軍複合体が基礎研究を行って技術水準の嵩上げに貢献する。
そんな組織をイメージしてください。
ストーリーに登場する歴史は特権者の攻撃により世界同時多発的な異変が起きた時点でわたしたちの史実から分岐します。
この世界では、特権者戦争終結後の混乱期に大量破壊兵器が蔓延し社会問題化した中で民間軍事会社が脅威の除去に努めています。
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