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女のひとの声に不意打ちを喰らい、おれはびくんと仰け反った。
ざわざわと逆立ったおれの髪の毛に、ほんのりとあったかい手が、横からそっと乗せられる。
「落ち着きなさい。そんなに驚くことはないでしょ?」
くすっ、という甘々な苦笑と一緒に、優しい声がおれの耳をくすぐった。
そのむずむずが変に苦しくて、おれは大袈裟に首を振って向き直った。
言い訳をくっつけて。
「あ、で、でもマリ姉ってば、急に来るんだから」
すぐ側に立つ、すらっとした長身を薄桃色の法衣に包んだ、おれよりも八つ年上のひと。
マリ姉だ。
まぶしいくらいの白い顔に、青空よりも透明な瑠璃色の目。
ほとんど金色に光る栗色の長い髪を一本編みにして、背中に回している。
きれいで、可愛いマリ姉の笑顔に耐えられず、おれはついとうつむいた。
……ああ、何だか顔が焼ける。
マリッサ=エウローラ=テルム、それがマリ姉の本名だ。
カレ兄の妹で、俺もルミも昔から『マリ姉』と呼んでる。
カレ兄は性愛の神の神官だけど、マリ姉は純愛の神の僧侶。
それも、こう見えてルミと同じ聖エウローラ寺院の第六階聖職者で、しかもその寺院に所属する聖騎士団の一員だったりする。
兄妹で信じる神が正反対なのは何でなのか、複雑な理由があるとかないとか……。
そのマリ姉が、おれの隣に座った。
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