第十四章 訓えの終焉

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 眉根が歪を歪めたカレ兄が、踵(きびす)を反した。  おれも破裂しそうな呼吸を抱えつつ、やっとカレ兄のところに追いついた。  息は上がり切り、かすれ声さえ出ないおれの前に、仰向けに横たわるマリ姉。  弱弱しく上下を繰り返す胸には、侍従ネイガーのザグナルが深々と突き立てられ、閉じかけた青い目はうつろに天を仰ぐ。  おれがマリ姉の側に膝を着くなり、耳元にカレ兄の大声が轟いた。 「ルミ!」  たった一言で、ルミは全部察したらしい。  暗雲も稲妻も吸い尽くした雷霆杵(ヴァジュラ)を握ったまま、ルミが必死の顔で駆けてくる。  同時に、深いため息に塗れた言葉を最初に洩らしたのは、真っ先に駆けつけていたクロウ兄だ。 「マリッサ、お前、どうして……!」  悔しさに満ち満ちた息に乗った、責めるような一言。  マリ姉に延ばしかけた指が、虚空で震えている。  本当は、今すぐマリ姉の胸のザグナルを引き抜いて投げ捨てたいのに違いない。  けれどそれどころか、今は指一本触れるだけで、下手したらマリ姉は……。  クロウ兄の視線が、力を使い切って座り込むシルク姉さんを一瞬流し見た。  そして戦慄(わなな)く声が、低く響く。 「まさかお前、罪滅ぼしなんざ……」
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