第十三章 約束の六人 ――法王驢馬と牛坊主――

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 すぐ背後で、わずかに砂が鳴った。  深い吐息にのって、かすかな言葉が届く。 「……『大愛』?」  ルミだ。 「あなたは、大昔の法王さまは、『大愛』の言葉の下に、たくさんのひとたちを、死なせてきたんでしょ? その柱の体を造った、たくさんの他の法王さまたちも、アケロンテ教団のひとたちと、逆らったひとたちも、それに侍従の、ネイガー師まで……」  消え入りそうに儚げで、それでいて真っすぐ芯の通った声音。  全身を砕く苦痛に耐え抜いて、途切れ途切れに綴るルミの言葉だけが、静まり返った空間に静かに染み渡る。 「大過のない幸いの境地? わたしたちを導く? 本当に、それは、わたしたち人間のため? もし、その想い自体が、法王さまだけのためのものだったら、たくさんの命を犠牲にしないと実現できないようなものだったら……」  血を吐くような悲痛な叫びが、静寂を衝き破った。 「そんなの大愛なんかじゃない! 絶対絶対、絶対、間違ってる!」  ルミの魂の訴えに、法王驢馬の顔色が変わった。  柱体をわなわなと震わせて、歯噛みする石の顔には、ないはずの青筋さえ浮かんで映る。  野獣のように、言葉にならない吠え声を上げた法王驢馬の白い柱が、ずずずっと揺れ始めた。  これまでよりも、さらに激しく。  ……来る!   くそっ……!  そして衝撃波を放ったその瞬間、ばかん、と濁った音が低く響いた。
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