第十三章 約束の六人 ――法王驢馬と牛坊主――

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 法王驢馬(バプスト・エーゼル)の起こした地震は半端に止み、異様な破砕音におれはハッと顔を上げた。  思わず見開いた目に映ったのは、無数の深い亀裂に覆い尽くされた、白い巨柱の姿だった。  ひん剥いた両眼はうつろに宙を泳ぎ、何かを叫びかけた口も、大きく開いたまま硬直している。  ……ああ、そうか!   怒りに任せて撃った大地震の反動が、逆に法王驢馬の体を砕いたんだ……!  カレ兄の声が、低く響く。重苦しくも、短く太く、鋭い声だ。 「見ろ」  グッと顔を上げて見ると、法王驢馬の力なく落ち切った顎の下に見える壁面は、クモの巣状の亀裂に覆われている。  そのバラの花にも似たひび割れの中心から、毒々しい肉色の光が洩れてくる。  おれの耳元で、ルミがかすかに呻いた。 「ねえねえ、ねえ、もしかして、あれって、穴?」  「穴?」  目を凝らせて見れば、確かに法王驢馬の喉元には、穴が開いている。  そのひびだらけの壁の向こうは、何もない空間らしい。  うつろな暗がりの奥に、不気味な光の源があるようだ。  おれの脳裏に白い閃光が走った。
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