第十四章 訓えの終焉

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 足の下に広がる聖印が、猛然と回り始めた。  歌うような不思議な詠唱が流れ、不思議な感傷が何故かおれの胸にしくしくと沁みてくる。  ……この祭文も、地下水道で聞いてる。  確か“輪廻回帰の秘儀”だったっけ……。  この荒れ地に、淡い光が天から降り注ぐ。  ミルク色の曙光に包まれて、横たわる無数の人影から光の球が漂い出てきた。  おれはすぐに理解した。  あれは、このパビアで死んだひとたちの魂だ。  街の崩壊に巻き込まれた住人と巡礼者、それに“葡萄酒の間”や大噴水の下で殺されてきた大勢の犠牲者……。  色鮮やかな赤や青や緑の鬼火(ウィル・オー・ザ・ウィスプ)の蛍のような乱舞の只中で、カレ兄たちに捕らえられた二体の怨霊も、びくんびくんとけいれんしながら、詰まったような唸り声をあげて、黄色い光の塊へと姿を変えていく。  ――ぐおおおおぅぅ――  けれど野獣よりも野蛮に泣き叫ぶ法王ネイガーと女法王の怨霊は、ぐねぐねと身をよじらせて輪廻回帰の祭文に激しく抵抗している。  たぶんきっと、おれたちの理解を遥かに超えた、途方もなく強くて凄絶な執着と未練に囚われているんだろう。  そんな黄色い怨霊の周りをふらふら漂う、弱弱しく赤い鬼火は、たぶんきっと侍従ネイガーだ……。
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