第十四章 訓えの終焉

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 高く澄んだ詠唱の声が、一段と高くなった。  地を覆う聖印の回転はますます速くなり、天上からの光もさらに強く目映くなる。  その光の中に、大きな二つの手がぼんやりと浮かび上がった。  白く目映い光の手は、赤ん坊を抱きとめる母親を思わせる優しい仕草で、地表へ差し延べられてくる。  そして無数の鬼火(ウィル・オー・ザ・ウィスプ)たちは、まるで待っていたかのように、一斉に光の手の方へと昇ってゆく。  行きつ戻りつうろうろしていた侍従ネイガーの赤い鬼火も、諦めたように法王ネイガーと智の女法王の怨霊からすっと離れ、天へと去っていった。  いつの間にか側に来ていたルミが、涙声で小さくつぶやく。 「みんな、みんな“樹の上”に帰っていく……」  ほどなく、この荒れ地に漂う鬼火たちは、光の手の中へと消えていった。  けれど黄色く変わった二体の怨霊だけは、地上にへばりつき、頑として天へ向かおうとはしない。  一体どうなるのか、おれが生唾を呑み込んだその時だった。  天の両手がおもむろに向きを変え、水をすくうように結んだ掌が上を向いた。  と、そこに現われた白く煌めく人影が、大きな翼を羽ばたかせ、怨霊たちの方へと急降下してくる。  あっという間もなく、純白の法衣をはためかせて荒れ地に降り立ったのは、黒鉄の甲冑に身を包み、背中にコウノトリのような白い翼の生えた人物だ。  蒼ざめた顔は口許まで鋼鉄の面頬(めんぽう)に覆われていて、ハッキリとは見えない。  けれど、たぶん女のひとだろう。  その手に握るのは、鋼鉄でできた長柄の断頭斧。  三日月形に反った刃は、ルビーの色に煌めいている。
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