第十四章 訓えの終焉

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 何とも言えない複雑な気分に襲われて、おれはうつむいた。  力の抜けたおれの右手が、小さな二つの手にぎゅっと握られた。  見なくても分かる。  ルミの手だ。  もう一度顔を上げてみると、甲冑の女は、どこからか銀色の投網を取り出していた。  そして投網を打って、地面に散らばる黄色い塊を残らず捕らえると、白い翼を広げて荒れ地から飛び立った。  断頭斧を引っ担ぎ、バラバラにされた怨霊ネイガーたちを抱え、光の手が待つ空へと翔ける女。  この場の誰もが、ただ黙って立ち尽くし、小さくなる後ろ姿を見送っている。 「あれは何なんだ?」  ふと洩らした疑問に答えたのは、脳裏に並んだ神妙な銀文字だった。 『死の天使フィーニース。死神の半数を統べる、死の女神の大聖霊よ。通例なら、死者を樹上へ導くのは死神の役割なのだけれど、殊に因業(カルマ)深く、死を受け入れない魂は、自ら刈り取りに赴くの。断罪を兼ねて』 「ねえねえ、ねえ。連れて行かれたネイガー法王さまと、智の女法王さまはどうなるの?」  不安と不思議な気遣いの漂うルミの問いに、おれたちの足元で黒猫がみゅふう、と深い吐息をついた。 『さあ、何が待っているのかしら?』 
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