第十四章 訓えの終焉

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『何千年にも及ぶ“大断絶計画(グランド・アイソレーション)”と“霧の呪い”は、星の数さえ凌駕する人間(ホムス)を犠牲にしているのだもの。海より深い怨恨と山のような因業(カルマ)を償うために、想像を絶する宿命が待っている筈よ』  やがてフィーニースは天頂へとたどり着いた。  そして待っていた巨大な左右の掌にそっと包まれた刹那、ほとばしった蒼い閃光が世界を真っ白に染め上げた。 「うわっ」  余りの眩しさに、おれはぎゅっと目をつぶる。  同時に、背後から静かなつぶやきが聞こえてきた。 「“イテ・リトゥス・エスト”」  恐る恐る目を開けてみると、フィーニースの姿も天からの手も、それに無数の鬼火(ウィル・オー・ザ・ウィスプ)たちもいなくなり、消えかけの星々が最後の光を放つ薄紫の空が広がっていた。  回る聖印も、もうかけらも残っていない。  見渡す限りの荒野の中に、無数の人影だけが点々と横たわっている。  ただただ無言で立ち尽くすばかりのおれたちだった。  けれど、その濃密なしじまの中で、シルク姉さんの膝がゆっくりと崩れた。  両手で顔を覆い、身を震わせて深い吐息をつく。 「ああ、ようやく終わった……。“大断絶計画(グランド・アイソレーション)”も、強いられた旧い訓えも。それに、アケロンテ教団の使命も。本当に、本当に永かった……」  地面に座り込み、感慨にむせび泣くシルク姉さん。  カレ兄もその側に寄り添い、静かに、力強く肩を抱いている。  安堵に浸り、満ち足りた二人の様子が、おれの胸をぐうっと締め付ける。
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