第十四章 訓えの終焉

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 カレ兄も全身で安堵のオーラを発散しながら、半泣きのルミとシルク姉さん、それに控えめに微笑むラウヒェンや落ち着かないクロウ兄にも、指示を出す。 「ルミ、今なら“慈愛の手(マーノ・カリタース)”が正しく効果を顕すだろう。詠唱を頼む。シルクとクロウはザグナルを抜いてくれ。止血しながら、慎重に。俺も手伝おう。ラウヒェンとクロは清潔な水を探してきてくれないか? すまないが……」  いそいそと動き始めた“約束の六人”と精霊を尻目に、ほとんどネコに戻ったグルマルキンは、悠然と顔を洗っている。 『さあ、確り動いてテルム卿を救命するのよ、アナタたち。まあネコの手なんて必要ないでしょ?』 「そういえば、あのニムロデはどうなった? 無事なのか?」  おれが聞くと、黒猫はつんと澄ました横顔で胸を張った。 『地下の異空間結界が崩壊したときに、間一髪で樹上に戻ったわ。あたくしたち聖霊(スピリタス)に抜かりはなくってよ。そんな事より』  みゅふふ、と意味ありげに笑った黒猫が、煌めく金の眼でおれたちを見回す。 『テルム卿の治療が済んだら、あたくしたちもみんなでぼんの待つ“城(ル・シャトー)”へ帰るの。そして旧(ふる)い訓えから解き放たれた人(ホムス)の世がどうあるべきか、じっくり考えるのよ、アナタたち。ようやく、新しい暁(あかつき)を迎えたのだから』  夜明けの陽光を受けるおれたちをぐるりと見渡して、ユディート姉さんもふふっ、と穏やかに笑う。けれどその眼差しは温かく、そして鋭く厳しい。 「旧い訓えの終焉を迎えても、世界はまだ終わっていないんだもん。これからの人間(ホムス)に要るのは何なのか、キミたちが本当に欲しているのは何なのか、自分の魂の奥底にじっくりと問いなさい。誰かの言葉に耳を傾ける前に。キミたちの深奥を覆い隠す霧は、もう消え失せたんだから……」
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