215人が本棚に入れています
本棚に追加
振り向くと、下への階段の前に人影が二つ、寄り添うように佇んでいる。
長身の男、それに小柄な女の人だ。
それが誰なのか、すぐに分かった。
「あ、カレ兄! シルク姉さんも!」
「みんなお前を探していたぞ。早く戻らないと、後が怖くないか? 特にラウヒェンは……」
呆れた風な苦笑を洩らし、遮るもののない朝の光の中へと踏み出してくるカレ兄。
僧衣や法衣とは少し違うようだけれど、緋色の正装をぱりっと着こなす引き締まった長身は、“パビアの崩壊”の時と何も変わっていない。
けれどその鋭く険しかった風貌は、六年前と比べるとすごく穏やかで、満ち足りている感じだ。
老けた感じは全くなくて、相変わらず若々しい。
そんなカレ兄に寄り添って、ゆったりと足を進めるシルク姉さん。
カレ兄の服と仕立てが釣り合った、ふっくらとしたドレスをまとっている。
あの時とは比較にならないほど肌つやもよくて、顔色もすごくいい。
波打つ髪もきれいに整えられ、円い眼鏡も新しく金縁でしつらえたようだ。
あの時よりも少し年がいって、どこにでもいる二十代初めの優しそうなお姉さんと、いった雰囲気が漂う。
一つの教団を束ねた“秘密の首領(セクレタ・イプシシマ)”の面影は、もうどこにもない。
俺は隣に立ったカレ兄を見上げた。
俺とカレ兄の目線の高さは、会うたびに少しずつ縮まって、今はもう頭一つ分の差もない。
静かな笑みを口元に湛えてアゴンを望むカレ兄、それに優しい眼差しを俺に注ぐシルク姉さんを交互に見遣る。
最初のコメントを投稿しよう!