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「先月以来だね、カレ兄。それに、シルク姉さんも。二人とも元気そうでよかった。今日はわざわざ来てくれて、本当にありがとう。俺なら大丈夫。ちょっと落ち着かないだけで、すぐに戻るからさ」
そこで俺は、おずおずと聞いてみた。
「でもカレ兄もシルク姉さんも、ホントはすごく忙しいよね? 大丈夫だった?」
「何を言っている。水臭いぞ、クロ」
即座にぴしゃりと答えたカレ兄の側で、シルク姉さんもにっこりと笑う。
「こ、ここ、来ない訳がありません。い、い、今の私たちは、い、忙しさなんて、り、理由になりませんから」
昔と変わらない口調でシルク姉さんが言うと、カレ兄が俺に聞く。
「ダンテス師からの書簡は受け取ったか? ラウヒェンに預けておいたが」
「ああ、うん。ちゃんともらったよ。ありがとう。後でルミに渡さなきゃ」
そう答えて、俺はカレ兄に聞き返す。
「テオ爺さん、やっぱり忙しい? カレ兄とシルク姉さんも、まだパビアだっけ? それに、マリ姉も……」
六年前に崩壊した宗教都市パビア。
“大断絶計画(グランド・アイソレーション)”とともに、大勢の命とすべての建物を道連れに消し飛んだ街。
けれど、生き残った人々が確かにいた。
テオ爺さんも、その一人だ。
無一物で身を寄せ合う生存者のために、テオ爺さんの主導で最初に再建が始まったのが、聖エウローラ寺院の救貧院だった。
パビアと同盟関係にある都市の援助を受けながら。
今の俺が住むこのアゴンも、支援を惜しまない同盟都市の一つだ。
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