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眼鏡の奥で、緑の瞳が真摯な光を宿す。
「き、き、霧の呪いは消散して、人間(ホムス)は、だ、だ、誰に訓えを強いられることなく、た、魂の声に従い、み、“自らの神”を探して、つ、繋がることができるように、な、なりました。で、でも、それは、多くのひ、ひとにとって、み、未知の地平。い、今までのふ、旧い世界から踏み出すのは、ゆ、勇気が要ることですから、す、す、すぐには、旧い訓えは消えないでしょう。で、でも、いずれは、ア、アケロンテ教団のように……」
「ひとが何を信じるか、あるいは何も信じないかさえ、もはや自由だ。しかし……」
伏し目がちのカレ兄が、皮肉っぽくつぶやく。
「人間はそれほど強くはない。寄る辺は必要だ。だから信徒の求めに応じ、消失した我がディーテ神殿に替わる仮初の祠堂を設け、俺がアマトリアの祭儀を執行している。シルクの云う日が来るまで、な」
浅いため息を洩らしたカレ兄をもう一度見上げ、俺は聞いてみる。
「それで、マリ姉は? ルミと一緒に、テオ爺さんのところにずっといたハズだけど……」
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