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第一章 黄昏時の広場にて
一
おれは大噴水の縁にちょんと腰かけた。
同時に、ほう、とルミのため息が聞こえる。
……何て暑苦しい息なんだろ。
こっちの息が詰まっちまう。
「やっぱりいいよねー。幸せそうな結婚式って、何回立ち会ってもいいなー、ね? クロ」
おれを『クロ』と呼んだルミが、チラ見してきた。
ルミナ=エウローラ=タイス。
みんなには『ルミ』と呼ばれている。
おれを『クロ』と言うのは、ルミだけじゃない。
クロード=ネメイアス=コイフ、誰もおれをそんな本名では呼ばない。
ルミは、おれよりほんの半年ばかり「お姉さん」だけど、体も小さくて、何となく幼い感じがする。
十三才にはなかなか見てもらえないのが、悩みらしい。
おれと同じ茶色の瞳。
でもルミの方が大きくて、ずっと透明できれいだ。
おまけに睫毛もずっと長い。
あの目で見られると、本当に困っちまう。
こいつはおれに何を言わせたいんだろ……?
こういうときは、おれはいつもふんと鼻を鳴らして、空を見上げる。
ああ、広い空を眺めると、何だか安心する。
今日の空はあんずジャムの色だ。
白い雲が、バターのように塗られている。
今度はおれがルミをチラ見してやった。
ちょっと整ったルミの横顔が間近に見える。
見られるのは落ち着かなくて困るけど、見るのはちょっと嬉しい。
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