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そのルミの口が、何か言おうと動いた。
……あ、やばい。
おれがさっと目を逸らした時、渋くて若い男の声が聞こえた。
「結婚式など、不当な従属関係の始まりに過ぎん。不幸の門出に、お悔やみを」
「ちょっとおっ! あんまりな言い方はやめてよね、カレ兄(にい)っ!」
ほっぺを真っ赤に膨らませたルミが、ふわっとした髪を勢いよく揺らして振り返る。
おれも振り向くと、背の高い人が立っていた。
すらっとした長身に、緋色の僧衣。
筒のような太い襟が、塀みたいに鼻から下を囲っている。
このカレ兄こと、カレル=ディーテ=テルムは、おれよりも十歳以上年上の聖職者だ。
“性愛の神”アマトリアを祀るディーテ神殿では、かなり高い地位にいるらしい。
緋色の僧衣はその証拠。
このカレ兄は、おれとルミと同じ村の出身。
おれたちの近所のお兄さん、だった人だ。
そのカレ兄は、むくれるルミを立ったまま見下ろしながら、襟の中から淡々と口を開く。
「私が何か間違ったことを言ったか? 結婚とは、我欲の極致。それが我が神の訓えだ」
「そんなことないもん!」
ルミがぱっと立ち上がった。
ほとんど怒った子犬の勢いで、カレ兄に突っかかる。
……何だか微笑ましい。
「結婚は、本当に好きな人に精一杯尽くす至高の行いだって、わたしの神さまの訓えだもん!」
「アモーラの教義なら良く知っている。相手を特定するのは真の奉仕ではなく、我欲の表われに過ぎん。何度も言ってるだろう、ルミ」
「でもでもでも……!」
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