第一章 黄昏時の広場にて

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 考えをずばずばと綴るカレ兄に、ルミは耳まで真っ赤にしてあれこれ言い返す。  結婚って何だ? っていうのは、アモーラの寺院とアマトリアの神殿の、大昔から決着が付かない論争らしい。  もう何千年も結論が出ていないのに、こんな立ち話なんかで収まるワケがない。  結婚なんかまだ十二、いや十三才のおれには全然関係ないし、つまんない口喧嘩だ。  ……二人とも、毎度毎度よく飽きないな。  そのうちルミが言い負かされてぐぬぬ、っていうのも、いつものことだ。  おれがあくびを一つしたとき、カレ兄がため息をついて空を見上げた。  すすっと目を横にずらすと、うつむいてふるふると唇を噛むルミの横顔がある。  あーあ、やっぱりな。  「何度も言っているだろう、ルミ。偽善は必ず行き詰まる。もっと真理を問え。己の内に」 「だからだからだから、だからわたしはっ……!」  ルミが、キッと顔を上げた。うるうるした茶色の瞳で、カレ兄をにらんでいる。  そのカレ兄は、一瞬ルミをチラ見してから、また天を仰ぐ。 「今日はここまでだ。私はもう行かなければ」  杏子色の空を見上げたその視線は、紅く煌めく二番星を見つめている。  あれは、アマトリアの神を司る星だ。 「どこ行くの? カレ兄」 「何百年ぶりかの重要な祭儀だ。それ以上は言えん」
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