第一章 黄昏時の広場にて

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 ルミの質問を無慈悲に蹴り飛ばし、カレ兄はおれたちに背中を向けた。  そのローブに包まれた背中は、何だか変に堅く見える。  何を緊張しているんだろ? 「ではまた会おう。“己に忠実に愛を行使せよ”」  素っ気なくアマトリアの決まり文句を口にしたカレ兄に、ルミも不満そうな笑顔を作って答える。 「またね、カレ兄。“他者のために汝の愛を”」  別れの聖句をカレ兄の背中に投げかけて、ルミはふう、と大きくため息をついた。  小さな足をゆらゆらさせて、ルミはうつむいている。  こういう子供っぽい仕草を見せるルミは、大体不満よりも後悔してる時だ。    顔を合わせれば面倒な議論ばかりのルミとカレ兄。  だけど村にいた頃から、ルミがカレ兄を尊敬してたのは知ってる。  だからルミは、カレ兄を頼ってこのパビアに来た。  で、おれもルミナの付き添いと、一人前の戦士になるため、ルミと一緒に、ここに来た。  ……何だかもやもやした気分になったとき、目の前にどやどやと人の群れが現れた。  服装も年もごちゃまぜの一団。きっと巡礼者だ。 「ご覧の大噴水は、今から三千年以上前、この宗教都市パビア開基のときより鎮座する街の象徴で、随一の名所でしてな」  おれは聞きなれた声のした方へと目を向けた。
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