第一章 黄昏時の広場にて

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 大噴水からちょっと離れたところに、背中に大きなカゴをしょった、小柄なじいさんが立っている。  着ているものはつぎはぎだらけ、顔もしわくちゃで、かなりの年らしい。  その割には背筋はしゃんとしていて、血色はいい。  かなり元気だが、何だか漂う雲みたいな、ふわっとした不思議な老人だ。  このテオじいさんは、あちこちの国から来たらしい巡礼者を前に、この噴水を指差して穏やかに声を張り上げる。   「円形の泉に立つ彫像は、神々を象徴する生き物が刻まれておりまして、その数はおおむね五十。このパビアに祀られる、ほぼ全ての神々を表わす聖獣の姿が見られます」  遠くからこの街へ来る人々への案内(ガイド)が、テオじいさんの毎日の日課になっている。  特に誰かに頼まれたというワケじゃないそうだ。  ……半分は趣味、もう半分は奉仕活動、なんだろうな。  噴水の周りに立つ人たちが、テオじいさんの堂々とした語りを聞いて、水を噴き上げる彫像を一斉に見上げる。  おれも、パビアをひっきりなしに訪れる、この巡礼者たちの目線をたどってみた。  ワシ、イルカ、それにサメやチョウ。  白い神々と黒い神々、両方を象徴するさまざまな生き物が、灰色の石に刻んである。  もちろん、愛の神アモーラの独角獣も見えてる。  でもおれは、ちゃんと知ってる。  ……この噴水は、完璧じゃない。  おれの隣で、おれと同じ彫像を見上げるルミが、ぽつりと言った。 「あ、でも、なくなってる生き物もいるのよね?」  同時に、似たような質問が巡礼者からテオじいさんに飛ぶ。 「『ほぼ全て』ということは、この噴水には聖獣のない神がいるんですか?」
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