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「なかなか鋭い質問。ほら、ようくごらんなさい」
テオじいさんは深くうなずきながら、大げさに彫像を指差した。
じいさんの枯れ枝みたいな指先は、彫像に付いた三つの大きな欠け跡に向けられている。
「あの三つの痕跡が見えますかな? いつ、どうして欠け落ちたのかは不明ですが、元々は双角獣(バイコーン)、大亀、それにネコが刻まれていた、と伝えられておりますな」
ルミがごそごそしている。
横目に見ると、あいつはどこからか薄い冊子を取り出していた。
薄茶色で何の飾りもない、ルミがいつも持ち歩いているノートだ。
読み書きの練習を兼ねて、あいつが『創世記』の全五章を書き写したらしい。
他にもいろいろ書き込んである、と言っていた。
ちなみに『創世記』は、世界と神々と人類の始まりを記した聖典だ。
全人類と、全ての神々が共有している。
「さてさて、 わしの案内はここまで。それではみなさん、日没までゆるりとパビアの夕刻をお楽しみ下され。”今日ここに在られたことに感謝を”」
テオじいさんの締めの一言で、巡礼者たちは広場の中に散っていった。
その場に残ったじいさんは、やれやれとばかりに、ぐっと大きく背中を反らせた。
よっ、とカゴをしょい直し、じいさんが広場にぐるりと視線を巡らせた。
……これはじいさん、いつものあれをやるつもりだな。
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