第一章 黄昏時の広場にて

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 おれの見ている前で、じいさんは背中のカゴから銀色のトングを取り出した。  そのまま足元に目を落としたじいさんが、ちょこまかと歩き回りながら、広場に散らばるゴミを拾い始めた。  そう、このテオじいさんは、パビアに集まる巡礼者のガイドと、広場のゴミ拾いを日課に暮らしている。  ぱっとノートを閉じたルミが、ててっとテオじいさんに駆け寄った。  そうしてにっこりと、テオじいさんに笑いかける。  ……これもまたいつものことだ。 「おじいちゃん、手伝いますね」 「おお、ルミ坊かい。いつもありがとうな」  テオじいさんはルミの頭をなでなでして、広場のゴミ拾いに戻った。  ルミも手づかみで広場のゴミを拾っては、テオじいさんの背中のカゴに投げ入れる。  テオじいさんの手伝い、つまり広場のゴミ拾いは、ルミにとっても毎日の日課のようなものらしい。  夕方、寺院のお勤めがない時は、あいつはいつもテオじいさんとゴミを拾ってる。  これも修行、なんだそうだ。  それにしても、ゴミ拾いのルミはいつも楽しそうだ。  おれも手伝おうか……。  って、広場の人たちがみんな見てる。  う、やっぱ恥ずかしい……。  拾おうかやめようか、どうしようか……。  つい立ったり座ったりのおれ。  と、唐突に凛とした高い声が響いた。 「挙動不審ですよ、クロ」 「わあ!」
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