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ニ 回想
『好きです!付き合ってください!』
中学2年の夏、俺は同じクラスの川崎結衣に告白された。クラスのマドンナだった彼女からの思いがけない告白には驚いたが、素直に嬉しかった。結衣の告白に応えて俺は彼女と付き合うことになった。
付き合ってからの日々は、それまで経験したことがないほど充実していて楽しかった。今まで嫌いだった勉強も放課後、机を並べて一緒にやれば楽しいものに思えて仕方がなかった。テストの点が大幅に上がったのは結衣のおかげだ。
デートもした。映画館、ショッピングモール、動物園、サッカー場など様々な場所に行った。怖いものが苦手だったり、パンダが大好きだったりと学校では知ることができない姿を見ることができ、知らず知らずのうちに俺は結衣の魅力にどんどん魅せらていた。
ちなみにお気に入りだったデートスポットは公園だ。ベンチに座って他愛もない話をしている時間は他のどの時間よりも心地良かった。
当時の俺はこの日々が永遠に続けばいいと願っていた。結衣も同じことを願ってくれていただろうか。今はもうその答え合わせをすることは叶わない。俺が願った日々は長く続くことはなく、突然終わりを迎えたのだった。どんなことにも始まりと終わりが存在し、永遠などありはしない、そう突き付けられた。
それは付き合い始めてちょうど3ヶ月目にあった花火大会の帰りに起きた。
『花火綺麗だったね〜』
『最後の花火、音がデカくて何か爆発したのかと思った』
『私もビックリした。思わず変な声出ちゃったもん』
俺たちは花火大会の感想を話しながら、家路を歩いていた。
もし、自分にタイムスリップできる力があったら、きっとその時間に戻るだろう。そうして自分に対してこう言ってやりたい。
「車道側を歩け、守れ」と。
一瞬の出来事だった。車道側を歩いていた結衣めがけてトラックが突っ込んで来たのだ。
『危ない!』
トラックに気づいた俺は結衣をこちらに引き寄せようと手を伸ばした。
しかし、遅かった。トラックは結衣を巻き込みながら後方にあるコンビニに突っ込んだ。
『結衣!』
急いでコンビニに向かう。コンビニの店内はガラスが割れ、商品が散乱している。しかし、そんなことはどうでもいい。とにかく結衣を探す。すると、トラックの横に頭から血を流して倒れている結衣を見つけた。
『結衣、結衣!しっかりしろ!』
必死に呼びかける。反応はない。それでも必死に呼びかける。やはり反応はない。目を閉じてぐったりしているだけだ。
結衣は亡くなった。トラックが突っ込んで来た理由は運転手の飲酒運転が原因だそうだが、別に運転手に対して恨みはない。恨みがあるのは、あの時、車道側を歩いていなかった自分だ。自分が車道側を歩いていれば、きっと結衣が死ぬことはなかった。デートの時、男は車道側を歩くべきというが、その理由がよく分かった。守るためだ。それができなかった自分は彼氏失格だ。様々な思いが俺の中をずっと巡っている。
こうして俺の中に残されたのは結衣を失った喪失感と後悔だけだった。
この日から俺は女子と関わることをやめた。また失うことが怖かったから。
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