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一 転校生
今日は朝から雪が降っている。昨日で冬休みが終わり、また学校が始まるというだけで憂鬱なのに、雪はそんな自分にのし掛かるかのようにどんどん積もる。
「うわっ、体育館に行く前は薄ら白くなってる程度だったのに、真っ白じゃん」
「本当だ。こりゃ、今日の部活は中止だな」
「いや、部活より心配するべきことがあるだろ」
「何?」
「無事に帰れるかどうかだよ。俺、自転車で来てるから滑ったら大変じゃん」
「確かに帰宅部の徹平には、無事に帰れるかどうかは重大な問題だな」
始業式を終えて、教室に戻って来た俺と伊織は外を眺めながら、そんな他愛もない話をしていた。
外を眺めながら話していて、俺はある変化に気づいた。冬休み前、自分の席と窓の間には何も無かった筈だが、そこには新しい机と椅子が置いてあったのだ。
「何でここに机と椅子があるんだ?席替えだっけ?」
俺がそう呟くと、伊織は「そういえば…」と何か知っているように答えた。
「それ、多分転校生の席だよ」
「えっ、転校生来るの?」
「バスケ部の泉から聞いた話なんだけど、一昨日、部活で学校に来たら、違う学校の制服着た奴がうちの担任の大衡と歩いてたらしいよ」
「マジか〜」
「転校生」という単語は聞くだけで何故かテンションが上がる。しかも、その「転校生」が自分の隣に来るとなれば尚更だ。何を話そうか、まずは自己紹介?それとも学校を案内した方がいいかな?と勝手に妄想が膨らむ。
しかし、次の瞬間、伊織が発した言葉に上がったテンションは一気に下がり、膨らんでいた妄想も萎んだ。
「めっちゃ可愛い女子だったらしいよ」
「マジかよ…」
本来、男であれば誰だって可愛い女子が隣に来るとなれば喜ぶのだろうが、俺は喜ぶことができない。俺は、中学時代に自分の身に起きたある事件がきっかけで、それ以来、女子と関わりを持つことに対して恐怖を覚えるようになってしまったのだ。なので高校生になった今でもクラスの女子とすらまともに会話したことがない。
小学校からの友人である伊織もそのことを知っているので、テンションの下がり様を見て、しまったと思ったのだろうか。すぐさまフォローが入る。
「徹平ごめん、うっかりしてた。まだあのこと引きずってるんだったな。確かにあれは辛い出来事だった…」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。これは俺の気持ちの問題だから」
自分でも本当は立ち直らないといけないことくらい分かっている。でも、どうしてもできない。また失ってしまうことが怖いから。そんなことを考えていると担任の大衡が教室に入ってきてた。
「ホームルーム始めるぞー。さっさと席着けー」
大衡の声に合わせて皆、急いで席に着く。全員が席に着いたことを確認し、大衡が続ける。
「よし、じゃあホームルームを始めるが、その前にこのクラスの新しい仲間になる者を紹介する」
「マジで!転校生来るの!」
「どんな子だろ〜」
大衡の言葉に皆、さっきまでの自分のようにテンションを上げる。伊織だけは心配そうにこっちを見ている。
「お前ら、静かにしろー。じゃあ入って来なさい」
大衡の合図と共にドアが開き、クラス全員の注目もそこに集まる。転校生の登場は全然楽しみではないが、とりあえず俺もドアに視線を向ける。
同時に、隣に女子が来るのはしんどいが、別にいつも通り関わらなければいいかと、考えていた。しかし、転校生を見た瞬間、そんな考えを忘れてしまうほど、動揺し、目を疑った。
「可愛い…」
「めっちゃタイプ…」
皆がそう囁く肩くらいまで伸びた綺麗な黒髪、左目に泣きボクロがある転校生は、自分が中学生の頃に付き合っていて今はもう亡くなってしまった川崎結衣にそっくりだったのだ。
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