第二章 友達の定義とは

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 飛鳥はシャーペンを握り直し、『他にってどんなものがあるの?』と、隅に書き込んで悠介に送った。 『ロボ先とか能面教師とかな』  返ってきた言葉を目にし、心の中で頷いた。あの教師は常に無愛想で、融通がきかない頑固なところとか、生徒の前では一切笑顔を見せないところとか、まさにそうだ。  提出期限の過ぎた課題を出そうとした生徒には、「期日を過ぎたものは受け取らないと前に言いましたよね?」の一点張りで、質問に対しても、毎回マニュアルのような返しだった。  まるでそれしか言えないようにプログラミングされているみたいだと、クラスメイトが話していたのを聞いたことがある。    普段生徒たちは、教師なんて歯牙にもかけていない様子なのに、案外観察しているものなんだなあと感心した。特にこの二つの名は、彼の特徴をよく捉えている。  あだ名を付けた者のセンスの良さに、思わず口から小さく笑いが飛び出た。  その数秒後、悠介の前で初めて笑ったことに気づき、慌てて隣を見やると――廊下の時と同じような無邪気な笑みをこちらに向けていた。  なんだか気恥ずかしくなって視線をそらす。  とにかく、返事を書かなければ。  悩んでいたら、彼が何やら新しくノートを破って書き始めた。時折筆を止めながら、あだ名の件よりも倍以上の時間をかけている。  ようやく終えると、意を決した表情で渡された。 『いつも放課後はあの屋上で歌ってんの?』 「…………ッ」  ついに来たか。ごくんと喉を上下に動かす。  肯定していいものか逡巡したが、彼の真っ直ぐな目を見て、ゆっくりと頷いた。  すると悠介は、内緒話をするように口の脇に手を当てて小声で言った。 「今度から、俺も一緒にいいか?」  ウッと言葉に詰まる。少年みたいな純粋な瞳で見つめられては、無下に断ることができない。 ――うぅ……顔が良いな。  顔圧に押される形で渋々承諾すると、悠介がパァッと顔を輝かせた。 「ありがとな」 ***  昼休み。放課後に屋上で悠介と落ち合うことになったと彰に告げると、思いっきり不満げに顔を歪ませた。 「あいつが飛鳥に危害を加える気がないのは一応わかった……が、一体何が目的なんだ?」  まさか本当に自分と友達になりたいだけなのだろうか。 「何考えてんだかよくわかんねえ……」  彰は渋い顔で、悠介の誘いを突っぱねる策を練っていたが、数分後、諦めたのか一際大きなため息をついて、半分投げやりになりながら言い放った。 「……まあ、へたに断って、あいつの気分を損ねるよかマシだと思うことにするか。いまいち、何しでかすかわかったもんじゃねえし……飛鳥、あの成金には俺達とバンド組んでること言うなよ」 「う、うん……」     ――それにしても、とんだ物好きがいるものだなあ。
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