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今しがた、1人。
幼なじみに告白された。
大雑把で元気で表情は豊か、豊かな中で笑顔が1番良く似合う女の子。
俺は彼女の笑顔が大好きだった。
救われてきた。
守りたかった。
自分で壊したくはなかった。
でも、この場では無理らしい。
告白は笑顔で終わるとは限らない。
ただそれだけの理由で俺は今日、彼女を泣かせてしまうのだと思う。
「月条好き。本当に本当に、好き......な...の、だから、その、」
いつもは元気な彼女が告白という舞台で普段は見せない弱々しい顔を見せる。
幼い頃から一緒に居たのにも関わらず、
知り得なかった表情を。
もしかしたら、自分だけが今まで知らなかったのかもしれない。
幼なじみであるが故に、彼女が自分よりも1歳上だったというそれだけで、無理をさせてしまっていたのかもしれない。
今まで彼女が俺に心配をかけまいと、笑顔を絶やさず、頑張ってくれていたことを今になって気付かされた。
「今日が最後だから、今日しかないから......。お願い......。」
「────」
静かに彼女の言葉を聞いた。
彼女の顔を直視出来ず下を向いた。
俺は卑怯だ......。
どうしようもないほどに、卑怯な奴だ。
ここから逃げたいと心の底から願ってしまっている。その後ろめたさは今の自分の状態に流暢に現れている。
彼女がどれほどの決意でここに立っているのかを考える余裕すらない。
そんな自己的にしか行動しようとしない自分に吐き気がした、偽善的な自分が自分自身すら騙そうとすることを押さえつけ、口から、血の泡が吹き出る思いになりながら、嘔吐物の代わりに言葉を吐き出す。
「田所ご、めん、本当に、ごめん......。俺...俺は、君を...選べ......ない」
もう無理だ耐えられない。
ここに来たのも──。
彼女と居たのも──。
今謝ったのも──。
全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部。
自分の為だ......。
自己という嘔吐へのストッパーが外れ始め、代わりに嘔吐するという事への羞恥心で耐える、そんな自分に追い討ちをかけるように、幼なじみの田所が俺に気を遣う。いつものように。優しい言葉で。
「ごめん、そうだよね。分かってた、分かってて聞いちゃった......。アハハっ、ホント、ゴメンね。」
田所は笑顔を取り繕いながら、慎重に慎重に俺を傷つけないように、言葉を紡ぐ。
それから「私、本当に......」と、田所が言葉を続けようとした、その時、俺は耐えることも虚しく、吐いてしまった。
言葉ではなく、胃の中の内容物を。
弱い自分は、言葉を発する代わりに、嘔吐するという形で気持ちをぶちまけた。
そして、それとほぼ同時に、嘔吐による物理的な痛みかはたまた、こんな事でしか自分を表せない愚かな自分への、心理的な痛みか。
目元から、涙が溢れてきた。
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