月之面影

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初老は盃に残った酒を一気に流し込み、意を決して空を見上げた。 ──ほの青白く、美しく光る月。 それが湧き出た感想であった。 「……私よりも若いと思っていたが、うむ。君の心は素晴らしいな。年の功など役に立たなかった」 「そんなご謙遜を」 初老は空になった盃に酒を注ぐことも忘れ、夜空に(ふけ)った。 美しいのは月だけではない。辺り一面にも小さな明かりが散らばっており、水面と夜空とを視界に収めれば、眩しいくらいの輝かしさだった。 「うむ。今となっても月は、星は、美しい。 ──あの月の面影はある」 「そうですね。あなたはきっと、それでいいのだと思います。 この夜空を見上げて、昔の月の美しさを思い出すことだって、悪いことではない」 男が真っ赤に染まった頬を、指先で小さく掻いた。 「……私はまだそうは思えないのです。胸が、苦しくなってしまう。これはきっと、若さなのでしょうね」 「かもしれませんな」 初老は盃へ酒を注ぎ、男へと差し出した。 月に思いを馳せる二人の男は、瓢箪が空になるまで昔の月の事を語り合ったのだった。
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