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「大丈夫? 結菜ちゃん」
「あ、うん」
「先生も、あんな言い方しなくていいのにね」
「まぁ、やってないのは事実だし」
何でもない顔をして、あふれそうになった感情を無理矢理呑み込んだ。心配してくれる穂乃花ちゃんを、どうしてもまっすぐに見ることができない。
彼女の机の上には、文集で使う原稿用紙が何枚も並べられていた。悩んでいた冒頭部分は、先ほど無事に完成したばかりだ。
雨上がりに思い付いたという詩はとても切なくて、廃校記念の文集にぴったりだった。リクやカイが撮った写真と合わせれば、きっと素敵な一ページになる。確認した先生も、文句の付けようがないみたいだった。
「ところで、いつ工事が始まるの?」
「取り壊しの日ってことだよね。ええっと……」
隣に立って覗き込んできた一ノ瀬くんの言葉に、作成中だった年表ページを広げる穂乃花ちゃん。着工日には今から六年後、廃校式からは丁度五年後の日付が記されている。
「僕は二十歳か……」
「穂乃花ちゃんも一ノ瀬くんも、大学生だね」
「瑞原さんもそうでしょ?」
「私は……どうかな」
数年後の未来があまりに暗くて、私は咄嗟に言葉を濁した。勉強も苦手だし、大学にまで行って学びたいものがあるわけでもなかった。
もっと要領良く、普通の大人になれたらいいのに。
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