真昼の幽霊

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「……ここからは見えそうにないね」 「プール、そんなに好きなの?」  頷いた一ノ瀬くんが、去年は泳げなかったから、と残念そうに肩を落とした。 「授業もなかったの?」 「プールの設備自体がないんだ。グラウンドも狭いしさ」 「でも……勉強に力を入れてる学校なんでしょ? 有名な私立中学だって、先生が……」 「関係ないよ。勉強なんて、学校に行かなくても出来るんだから」  学校以外で勉強なんてしたこともない私には、到底理解できない話だった。テスト期間中でさえ、重たい教科書類は学校に置きっぱなしだ。 「ここはグラウンドも広いよね」 「あーでも……プールは駄目」 「どういうこと?」 「あるにはあるんだけど、古くて使えないの。中も外もボロボロで、柵には鍵がかかってるし」 「へぇ……でも、なんか面白そう」 「え?」 「廃墟みたいになってるってことでしょ? 余計気になるんだけど」 「うーん……」  じゃあ、行ってみる? と口に出したのは興味津々といった表情で見つめてくる彼に根負けしたからだ。長く目を合わせられなかったという理由もある。 「放課後でいいなら案内するけど」 「いいの?」 「外から眺めるだけね」  やった、と喜ぶその顔は、いたずらを企む少年そのものだ。リクやカイと変わらない、ただの同世代の男の子。そう納得したはずの私の心臓は、どうしてかいつまでも騒がしいままだった。
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