真昼の幽霊

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「幽霊?」  待ちに待った休み時間、私はさっき見た人影のことを穂乃花ちゃんに相談することにした。 「そう! こうやって手を伸ばして……なんか必死な感じで校門の所に立ってたの。ほら、あそこの桜の木の側だよ」 「陸斗(りくと)海斗(かいと)じゃない?」 「一年生の二人も、その時間は隣の教室で授業でしょ?」 「うーん…確かに。体育は合同だから外にいるわけないし……他に私や結菜(ゆうな)ちゃんと同世代の男子っていうと――」 「いないよ。いるわけない」  一年後に廃校が決まっている、山間の寂れた中学校だ。在校生は私を含めたったの四人。そしてそれが、この集落にいる子供の全員だった。 「じゃあやっぱり、あの噂は本当だったのかな」 「噂って?」 「もう忘れたの? 一年前の大事件」  穂乃花ちゃんの言葉にハッとした私は、否定も肯定もせずに押し黙る。  先生がいなくなった二人きりの教室に立ちこめる、不穏な空気。 「もう、そんな顔しないで。最近は変なことも起きてないんだし、きっと大丈夫よ!」  何かを取り繕うように、笑顔で頷いた穂乃花ちゃん。静かになった私を見て、どうやら怯えていると勘違いしたようだ。 「幽霊でも……良かったのに」  ぽつりと呟いた声は、幸い彼女の耳にも届かなかったらしい。  私はただ、心からがっかりしていた。終わりを待つだけの閉鎖的な日常が、幽霊の存在によって変わるような気がしたからだ。
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