真昼の幽霊

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「ただいまー」  お母さんの声に、私は慌てて階段を駆け下りる。勝手口にどっしりと置かれた買い物袋からは、ちょっと苦手な長ネギの先がはみ出していた。 「おかえり。遅かったね」 「今度は坂下さんとこの奥さんがやめちゃったのよ。介護が大変なんですって。来週から社員さんが入ってくれるらしいけど、これが全然仕事しないのよねぇ」  ピリピリとした空気が、肌に直接伝わってくる。山の麓にある選果場で何年も働いているお母さんは、最近特に愚痴ばかりだ。  幽霊の話を聞いてもらいたかった私は、すぐに諦めてダイニングチェアに腰掛けた。きっとまた、くだらないと一蹴されるだけだろう。 「ちょっと結菜、そのスカートはどうしたの?」 「どうしたのって……いつもの制服だけど」 「全く、こんな時間まで何してたのよ! 汚れたりしたらどうするの?」 「上はTシャツに着替えてるじゃん」 「横着しないの。麓の学校に移っても使うんだから、大事にしなさいよ!」 「……わかってる。それより、頼んだ雑誌買ってきてくれた?」  呆れ顔で差し出されたのは、毎月楽しみにしているファッション誌だ。キラキラした表紙には、それに負けないくらいキラキラした同世代の女の子が写っている。
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