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「……何か、変わるような気がして」
誰にも言えなかった本心が、ぽろぽろとあふれ出す。
「見せかけだってわかってる。遊具のペンキも、小屋の修理も、全部自己満足だよ。でも……もしかしたら誰かの気が変わって、廃校なんて馬鹿な話は取りやめになるんじゃないかって、そんな気がしたの」
一ノ瀬くんを見つけたあの日、私は数秒だけ奇跡を信じた。突如現れた幽霊による騒ぎのせいで校舎を取り壊す案がなくなり、廃校も立ち消える。そんな馬鹿みたいな妄想が、頭の中を確かによぎった。
「瑞原さんは、この学校が好きなんだね」
私は素直に頷くこともできず、下唇を噛みしめた。ささやかな抵抗なんて、きっと誰の目にも届かない。
「他を知らないだけだよ」
六年生の一年間、麓の小学校に通っていたリクとカイには、すでにたくさんの友達がいる。中学三年生の穂乃花ちゃんは、来年の春から高校生だ。卒業という区切りを経て廃校式に臨むのだから、何の不安もない。
私だけだ。
私だけが、誰もいない校舎で置き去りにされている。
この場所から、他の誰かを見送り続けている。
東京への憧れを募らせていた本当の理由に、一ノ瀬くんだけが辿り着いてしまった。
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