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ハリネズミとふくろう
「静かな雨だね」
窓の外を見て、一ノ瀬くんがぽつりと呟いた。確かに、薄い窓硝子越しにも関わらず雨音はほとんど聞こえない。
「こっちの列はだいたい終わったよ!」
図鑑が並ぶ背の高い棚から顔を覗かせた穂乃花ちゃんが、なんとかなりそう、と安堵した様子で再び奥に引っ込んだ。
貸し出しカウンターの前に積まれた段ボールからは、この学校の主みたいな分厚い蔵書が何冊も溢れている。私はその途方もない現状から目を背けて、今は用のない海外文学の棚を眺めた。
「瑞原さんも好き?」
「え?」
「こういう本」
いくつかのタイトルを指差す一ノ瀬くんに、ううんと首を振って苦笑する私。彼の左腕には、仕分け中とおぼしき本が二冊ほど挟まっている。
生徒だけでは判断が難しい、地学に関する本だった。
廃校式までに図書室を整理するのも、私たち在校生の仕事だ。
倉庫代わりにしている隣の視聴覚室には、ぎっしりと中身の詰まった段ボールが所狭しと積まれている。
一足先に廃校してしまった隣の小学校の蔵書を一時しのぎのような格好で保管していたが、それも今年中に片付けなければならない。
週二回のロングホームルームを使って小学生向けの本を仕分けするところから初めているが、正直言って全く終わる気がしなかった。
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