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「整理した本は、この後どうなるの?」
「順次送られる予定だよ。麓の小学校とか、中学校……あとは図書館なんかにね」
私の説明に、一ノ瀬くんがほっとしている。
日焼けや痛みが激しい本についてもいきなり捨てるようなことはせず、できるだけの修繕をして山の公民館で保存する予定だ。
中学の廃校を待たずに新しい場所へと移り住む本たちが、今は少しだけ羨ましい。この学校の終わりを、見届けなくてもすむのだから。
「一ノ瀬くんは?」
「ん?」
「……本、好き?」
「中学に入るまでは、よく読んでたかな」
そう言って彼が新しく手に取ったのは、見慣れない海外の児童文学だ。もう一年以上この学校に通っているが、まだまだ知らない本がたくさんある。
「わ、これ……誰も借りてないね」
背表紙の裏に貼り付けられたポケットから覗いているのは、無記名の貸し出しカードだ。蔵書印の年月日から、かなり古い本だということもわかった。
「綺麗な挿絵。これはハリネズミと……」
「ふくろうだよ。小二の時に読書感想文を書いたから、内容もよく覚えてる」
孤独で臆病なハリネズミが森で暮らす優しいふくろうと出会い、心の傷を癒やして一人で冒険に出る話。
楽しそうに教えてくれる一ノ瀬くんに、私は思わず首を捻る。
「一人で冒険に出るの? 二人じゃなくて?」
「ふくろうには森での暮らしがあるんだ」
「だったら、森で一緒に暮らせばいいのに。離ればなれなんて嫌だよ」
たくさんの経験や、思い出や、宝物を手にふくろうの森へと帰るハリネズミ。二人が再会するところで、物語は終わっているらしい。
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