真昼の幽霊

4/10

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
「ねぇお母さん。これ、かわいいと思わない?」 「また服の話?」 「スマホケース! モデルの子がデザインしたオリジナル商品だよ! しかもこの春限定なんだって!」 「何を言い出すのかと思ったら……そんなもの、あなたには必要ないでしょ。スマホなんて持ってないんだから」  確かに、私はスマホどころかタブレットひとつ持っていない。これまでも散々ねだってきたが、高校生になってからの一点張りだった。  それでも憧れは尽きない。いや、だからこそ憧れ続けるのかもしれない。まだ見ぬ外の世界と、少しでもいいから繋がってみたかった。 「そろそろ買ってもいいんじゃない? スマホくらい、今は常識だよ」 「常識ねぇ」 「でも……みんな持ってるし」 「みんなって誰よ。 多田さんのところの穂乃花ちゃんも、大杉さんとこの兄弟も、スマホを買ったなんて話は聞かないわよ」 「だーかーら! 世の中の普通の中学生の話をしてるの! ほら、この雑誌の……この子とか! 見てみて、二台持ちだって! お仕事用と分けてるみたいで――」 「それは普通じゃなくて、特別な子でしょ」 「普通の子でも、絶対持ってるもん」 「じゃあ、成績が上がったらね」  成績のことを言われてしまったら、私にこれ以上の勝ち目はない。どんなに悔しく思っても、今は下唇を噛みしめることしかできなかった。 「わかったら早く着替えてきなさい。玄関の空き箱も、いい加減片付けなさいよ! あんなに欲しがってたくせにちっとも履かないんだから」 「ハイハイ」 「ハイは一回!」
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加