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「ねぇお母さん。これ、かわいいと思わない?」
「また服の話?」
「スマホケース! モデルの子がデザインしたオリジナル商品だよ! しかもこの春限定なんだって!」
「何を言い出すのかと思ったら……そんなもの、あなたには必要ないでしょ。スマホなんて持ってないんだから」
確かに、私はスマホどころかタブレットひとつ持っていない。これまでも散々ねだってきたが、高校生になってからの一点張りだった。
それでも憧れは尽きない。いや、だからこそ憧れ続けるのかもしれない。まだ見ぬ外の世界と、少しでもいいから繋がってみたかった。
「そろそろ買ってもいいんじゃない? スマホくらい、今は常識だよ」
「常識ねぇ」
「でも……みんな持ってるし」
「みんなって誰よ。 多田さんのところの穂乃花ちゃんも、大杉さんとこの兄弟も、スマホを買ったなんて話は聞かないわよ」
「だーかーら! 世の中の普通の中学生の話をしてるの! ほら、この雑誌の……この子とか! 見てみて、二台持ちだって! お仕事用と分けてるみたいで――」
「それは普通じゃなくて、特別な子でしょ」
「普通の子でも、絶対持ってるもん」
「じゃあ、成績が上がったらね」
成績のことを言われてしまったら、私にこれ以上の勝ち目はない。どんなに悔しく思っても、今は下唇を噛みしめることしかできなかった。
「わかったら早く着替えてきなさい。玄関の空き箱も、いい加減片付けなさいよ! あんなに欲しがってたくせにちっとも履かないんだから」
「ハイハイ」
「ハイは一回!」
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