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「式の為に準備した大きな垂れ幕が……直前まで校舎の二階から垂れ下がっていた垂れ幕が、忽然と消えてしまった」
「何が書いてあったの?」
「さよなら、里山小学校」
「それだけ?」
「それだけ」
緊迫した表情で頷く穂乃花ちゃんが、ゆっくりと視線を落とした。
「子供たちのいたずらじゃないかって先生は言ってたけど、私たちの中に犯人はいない。だって盗んだり隠そうとしたりするんなら、もっと早くにできたはずだもん。それをどうして、わざわざ人目がある廃校式の日に?」
「確かに……」
穂乃花ちゃんと一ノ瀬くんのやりとりを聞きながら、私は当時の様子を鮮明に思い出していた。
下書きを書いたのは穂乃花ちゃんを含めた当時の中学生たちで、色を塗って仕上げたのは私たち小学生。できあがった垂れ幕を飾ったのは先生たちだ。
「後でみんなに聞いてみたけど、全員が目を離したのはほんの数分だけだった。一階には受付の先生がいたし、裏口には鍵がかかってた。あんな大きなもの、盗んだり持ち出したりしたら絶対にわかるよ」
「じゃあ、どこかに隠したとか?」
「そう思ってみんなで探したけど……どこにもなかったの。さっき言った通り一階には持ち出せないし、二階は関係者以外は立ち入り禁止になってたんだよ。不審な人がいたらすぐにわかるし、どこの教室も空っぽだったから隠すような場所もない」
ふうと息を吐いた穂乃花ちゃんが、少し冷静になった様子で席に座り直した。あの日、私たち児童を疑い続ける先生を穂乃花ちゃんは最後までかばっていた。
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