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「結局、式はそのまま執り行われた。でも、後から遅れてやってきた卒業生の一人が教えてくれたの。垂れ幕は、ちゃんと校舎の正面にかかってたって」
「……どういうこと?」
「式の途中で、元の場所に戻ったんだと思う」
どこか悔しそうに下唇を噛みしめた穂乃花ちゃん。
「式には全員が参加してたし、遅れてやってきたのは証言をした卒業生ひとりだけだった」
確かにミステリーだね、と呟いた一ノ瀬くんに、穂乃花ちゃんがふっと相好を崩す。
「だからやっぱり、幽霊はいたんだよ」
この話の最後はいつも、そこに行き着く。私はどちらの意見にも同調せず、気まずい思いで窓の外を見た。
これがミステリーなら、間違いなく駄作だ。
「瑞原さんも行くよね?」
唐突に話を振られ、私は反射的に振り返る。
「放課後、当時の現場を見に行こうって話してたんだ」
「でも……今は校舎全体が立ち入り禁止だし、どこも鍵がかかってるよ」
「外から見るだけだから大丈夫。里山中の生徒として、知っておくべき事件だろ」
「うーん……まぁ、見るだけなら」
「じゃあ決まり」
ちょうど良く予鈴が鳴ったので、私は逃げるように自分の席へと戻った。隣からはまだ、二人の軽快なおしゃべりが聞こえる。結菜ちゃんは幽霊が苦手なんだよ、というひそひそ声も聞こえていたけれど、私は知らんぷりでバタバタと授業の準備を開始した。
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