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「ここが事件現場かぁ」
「ねぇ、一ノ瀬くん」
「屋上はないみたいだね。垂れ幕はどこに――」
「ねぇってば!」
声を荒げた私に、一ノ瀬くんが振り返る。
雨上がりの地面はぬかるんでいて歩きにくいし、靴のつま先にはいくつも泥が跳ねている。閉じた傘はまだ湿っていて不快だし邪魔なだけだ。学生鞄がやけに重たいのは、図書室で借りた本のせいだろう。
「何か見つかった?」
「そうじゃなくて……どうして二人だけなの? 穂乃花ちゃんは?」
「ああ、良い詩が思い浮かんだから今日はまっすぐ帰るってさ。文集係も大変そうだよね」
「じゃあ、今日はやめようよ。明日またみんなで――」
そう言いかけたところで、ふふっと急に笑い出す一ノ瀬くん。幽霊が苦手って話は本当だったんだ、なんて言われたけれど私は素っ気なく否定することしかできなかった。
「それで、垂れ幕がかかってたのはどこ?」
「……正面西側の、一番端っこの窓」
「中学の校舎に近い場所だね」
なるほど、と言いながら、ぐずぐずになった地面を突き進む一ノ瀬くん。そうして何も植えられていない花壇を通り過ぎると、垂れ幕がかかっていた場所の真下へと辿り着いた。
「ねぇ、あぶないよ」
「どうして?」
「こっちの校舎、すごく古いの。中学校は後から建てられた鉄筋製だけど、小学校は木造校舎のままだから……」
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