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二十年ほど前に瓦屋根が赤い鋼板に葺き替えられた以外は、改修工事などもほぼ行われていない。在学中にも床が抜けている場所があったり、開かない引き戸があったりと酷い有様だった。
「じゃあ、やっぱり中は駄目?」
「当たり前でしょ。鍵もないし、天井が剥がれてるところもあるから本当に危ないよ」
「残念」
そう言いながら、中学校との境目でもある校舎の西側にやってきた一ノ瀬くん。この奥には柵もなく、行き来が自由になっている。
そのことを彼も知っているはずなのに、今日はわざわざグラウンド側の柵を飛び越えてやってきた。
まるで、あの夜を思い出させるみたいに。
「こっちの壁はモルタルなんだね。東側の壁もそう?」
「同じ、白い壁だけど……」
「ふうん。で、窓は二階に一つだけか。そういえば体育館も、プールみたいに共同で使ってたんだっけ」
西側の校舎裏まで走って行った一ノ瀬くんが、振り返っておーいと声を上げる。私は歩きながら追いついて、中学校側の敷地に建っている体育館をちらりと見遣った。
「さっきも言ったけど……中学校は後から建てられたの。ここはもともと、全部小学校の敷地だったんだよ。だからあっちのグラウンドは田んぼを埋め立てて作ったって聞いたけど……」
「面白い話だね」
目を輝かせる一ノ瀬くんに、私はいよいよ無言になった。その口から紡がれる「綺麗」も「面白い」も、私にはよくわからない。
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