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「まだ怒ってる?」
「……何が?」
「強引に連れてきたこと」
「別に……」
「じゃあ、犯人を暴かれるのが怖いとか」
え、と微かな声が漏れる。驚きに満ちた目で一ノ瀬くんを見ると、彼の口がゆっくりと弧を描いた。
「さっき、多田先輩に聞いたんだ。式の後、瑞原さんの姿が見えなくなったって」
「それは……写真撮影とかが、面倒だったっていうか」
「面倒じゃなくて、辛かったんじゃない?」「……」
「どうして下向くの?」
「……別に」
「嘘つく時の癖?」
「違っ!」
否定する為に顔を上げたけれど、彼の顔が意外にもすぐ近くにあって口をつぐんだ。鞄の持ち手を強く握りしめていたせいで、余計に腕が重く感じる。
「これは全部、僕の勝手な予想なんだけど……」
そう言って語り始めたのは、幽霊のしわざだと噂されてきた垂れ幕事件の真相だった。
「廃校式の朝、この計画を思い付いた犯人は準備をするために堂々と校舎内に入り込んだ。受付がある昇降口から入っても、立ち入り禁止になっている二階に上がってもおかしくない人物だったんだ。それから誰も見ていないタイミングを見計らって、こっそりと垂れ幕を回収した」
「いくら内部の人間でも、あの垂れ幕を持ち出したらさすがに目立つよ」
「だから隠したんだ。それもまた、堂々とね」
「どうやって?」
「教室を出てすぐの廊下にある西側の窓から、もう一度同じように垂れ幕を下ろしたんだよ」
心臓が、ドクドクと嫌な音を立てている。雨上がりの湿気のせいか、背中にはじっとりとした汗をかいていた。
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