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駄目な私はきっと、高校を卒業した後も文句ばかり言いながらこの集落に残り、麓で適当にバイトをしながら田んぼや畑を手伝って、目的もなく暮らしているのだろう。相も変わらずファッション誌でも眺めながら、東京への憧れだけを抱いて。
「きっと、その頃にはみんな忘れちゃうよね」
自ら発した言葉に傷つき、私は俯いた。中学校の校舎が取り壊されることなんて、その頃には誰も覚えていないだろう。一生懸命作った文集も棚の隅に追いやられ、読み返すことすらなくなってしまうのかもしれない。
「みんなって、瑞原さんも?」
「……私は」
私は忘れない。忘れられるはずがない。
取り壊される校舎を見ながら、いつまでもこの痛みを引きずっているはずだ。いろんな物を一つ一つ上手にかみ砕くには、後どれくらい年月が必要なんだろう。
「僕は、もしかしたら忘れちゃうかもしれない。でも、忘れたくないって思ってる」
独り言のような一ノ瀬くんの声に、私はゆっくりと顔を上げる。
「六年後にも、こうして集まれたらいいのに。また、僕たちみんなでさ」
「どうやって?」
「それは、まだ思い付かないけど……校舎が取り壊される日にも、何かできないかと思って」
「良いアイディアなんじゃない?」
笑顔で同意する穂乃花ちゃんに、私の心臓がざわざわと音を立てる。
「結菜ちゃんも言ってたよね。みんなで見届けられたらいいのにって」
「言ったかもしれないけど……どうせ無理だよ。中学校の廃校式だって、小学校の時ほど人が集まらないって言われてるんだよ? 空っぽになった校舎に、一体誰が来てくれるっていうの?」
「やってみないとわからないよ」
「わかってないのは一ノ瀬くんだよ! 他所から来た人には、わかるわけない!」
耐えきれず声を荒げて、私は教室を飛び出した。今日まで当たり前に打ちのめされてきた日々が、頭の中を嵐のように駆け巡る。
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