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「やっと会えた」
「どうして……ここに」
「また、僕が何か言いすぎたんじゃないかと思って……」
「もしかして、一人で追いかけてきてくれたの?」
「全然追いつかなかったけどね。石段の下から何度か声をかけたんだけど、気付かなかった?」
無視するくらい怒ってるのかと思ったんだけど、と心配する一ノ瀬くんに、黙ったままで首を振る私。
「何とか上りきったと思ったら、また姿が見えなくなってるし……いよいよ神隠しにでも遭ったんじゃないかって心配してたんだ」
隣に立って、見晴らしの良い景色よりも私の方ばかり見てそう呟く一ノ瀬くんに私の胸がいっぱいになる。
赤く燃える空よりも、手の届かない海よりも、すぐ傍で微笑む一ノ瀬くんが私のささくれだった心を溶かしてくれていた。
「好き……」
「え?」
「ここから見える景色、全部が好きなの」
そう言いながら、私は一ノ瀬くんの横顔ばかり見ていた。今更のように崖の方へと視線を移した一ノ瀬くんが、感嘆の声を上げる。
「すごいね……どこまでも真っ赤だ」
「みんなには内緒にしてるの」
「秘密基地みたいな場所ってこと?」
懐かしい単語が、古い記憶を呼び覚ます。
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