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「男の子って好きだよね、そういう……秘密基地とかさ。リクとカイが作ってた、段ボールとタイヤの秘密基地を思い出しちゃった」
「陸斗たちの基地ならすごい仕掛けがありそうだね」
「仕掛けとかはなかったけど、学校の裏にある大きなビワの木の下を占領しちゃって大変だったんだよね」
「それって、ちょうどこの辺りじゃない?」
「もう少し下だよ。石段の途中にあったと思うけど、今は何も残ってないんじゃないかな」
本当に見てみたかったのだろう。残念だと言って肩を落とした一ノ瀬くんに、私は思わず苦笑する。
「当時から段ボールは雨にぬれてボロボロだったし、タイヤには水が溜まってボーフラがわいて散々だったよ。穂乃花ちゃんなんて、夏休みの自由研究で作ったロケットまで埋められちゃったんだから。ゾンビから逃げる為の最終手段だとか何とか言ってさ」
「ははっ、また設定が凝ってるね」
「本人たちは大真面なんだから手に負えないよ。私が毎日つけてたお気に入りのヘアピンも、いつの間にか基地の鍵の材料になってたんだから」
尚も笑い続ける一ノ瀬くんに、人ごとだと思ってるでしょ? と唇を尖らせる。そんなことないよ、と否定した一ノ瀬くんの手が、私の頭をぽんぽんと撫でた。まるで子供をなだめるような手つきだ。
私は黙ったままで、それを受け入れた。全く嫌な気持ちにはならなかった。夕日のせいか、やけに顔が熱い。
「瑞原さん」
「……ん?」
「今日は、ありがとう。瑞原さんのおかげで、こんな綺麗な場所に来ることが出来た」
「私は、勝手に逃げてきただけだよ」
「それでも嬉しいんだ。宝物が増えたみたいで」
「大げさなんだから……」
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