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「幻なんかじゃないよ」
自信に満ちた彼の声。それは真夜中、ブランコを漕ごうと誘ってきた時の表情によく似ていた。
いつの間にか、沈みきっていた太陽。
迫り来る夜の気配に、私はそっと息を呑む。
「……帰ろっか」
今日は、一ノ瀬くんからそう言ってくれた。
そうだね、と頷いた私の心は来たときよりもずっとすっきりしている。
「陸斗たちの秘密基地は、石段の途中にあるんだっけ」
「見てみる? 跡地だけど」
「いいの?」
「ビワの木があるから、たぶんわかると思うよ。あのロケット、まだ埋まってるのかなぁ……」
そのとき、急に足を止めた一ノ瀬くんがなにやら難しい顔をして俯いた。顎に手を当てる仕草は、考え事をしている時に出る彼の癖だ。
「……タイムカプセルなんて、どうかな?」
「何の話?」
「思い出係だよ。実は、石段を上る間もずっと考えてたんだ。取り壊しの日にもう一度集まる方法を」
私も、集まる方法なら何度か考えたことがある。校舎が取り壊される年に、もう一度案内を出せないだろうか。公民館やバス停などで告知するだけでも、結果は違うかもしれない。けれど何をするにも、大人の許可が必要だった。卒業生の住所録を勝手に持ち出すことはできないし、掲示物でさえも無許可で貼り出すことはできない。
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