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「そこで、タイムカプセルだよ」
一ノ瀬くんの顔は時折垣間見える少年のそれだった。グラデーションになった空を映して、瞳までキラキラしている。
「結構名案だと思うんだけど、どうかな? 廃校式の日に、思い出の品をみんなで持ち寄って箱に入れて埋めるんだ」
「私たちだけで?」
「いや、先生や卒業生にも、もちろん協力してもらう。別にお金をかけろって言ってるんじゃないんだ。何か一つ、記念になる思い出を埋めるだけでいい。瑞原さんが任されてる係があるだろ? その記念品代わりにはなるんじゃないかな」
「じゃあ、私が新しく作らなくてもいいってこと?」
「先生の捉え方次第だけど……」
「埋めた後はどうするの?」
「六年後……いや、廃校式の後だから五年後か。その工事開始日の直前に開けることにする。僕たちが回収して埋めれば、誰が何を入れたのかわからなくなるはずだ。だからきっと、すごく気になるよ。久しぶりに再会した級友が、タイムカプセルに何を入れたのか」
そんなに上手くいくのだろうか。弾む気持ちを隠しきれずに語る一ノ瀬くんに反して、私の心は不安に満ちていた。
「きっと賑やかになるよ。学校が取り壊される日も、寂しく見送る必要はないんだ」
だから一緒にやろうよ、思い出係。
そんな彼の熱心な言葉に、抗うすべが見つからない。私は足を止めたまま、黙って頷くことしかできなかった。
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