真昼の幽霊

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 * 「一ノ瀬蛍(いちのせけい)です。よろしくお願いします」  幽霊じゃなかったんだ。  黒板の前に立つ男の子を見て、私はそっと息を呑んだ。  形の良い眉と、薄く引き結ばれた唇。知らない校章が刻まれた品の良いブレザーは、真面目そうな彼によく似合っていた。  胸ポケットから覗く金色に縁取りされた艶やかな黒色は、ボールペンのキャップだろうか。 「東京の私立中学に通っていたそうだ。二年生だから、瑞原と同じだな。席は……せっかくだから真ん中でいいか」  そう言うと、隣の空き教室から持ってきた机を穂乃花ちゃんと私の間に置いた先生が満足げに頷いた。  窓の外に吹く風は、昨日と同じ春色をしている。けれど一人増えて四人になった教室は、これまでと全く違う空気に包まれていた。
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