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壊れた万年筆
「駄目だ駄目だ。そんなのは許可できない」
掃除を終えたばかりの教室に、先生の面倒そうな声が響く。どうしてですか、何が駄目なんですか、と詰め寄る一ノ瀬くんは、昨日まで着ていた優等生の皮をすっかり脱ぎ捨ててしまったみたいだ。
「お前たちだけなら構わないが、卒業生全員分となるとかなりの量になるんだぞ。それを何年間もしまっておけるほどの容れ物を用意できるのか?」
「……これから考えます。僕たちみんなで、大きくて頑丈で防水完備の箱を――」
「いくら考えたところで用意できるわけがないだろう。穴を掘るのも大変だし、場合によっては重機を使わなきゃいけない。この辺りにはイノシシだって出るんだから、冗談で食べ物でも入れられたらすぐに掘り返されるぞ」
早口でまくし立てる先生は、片手を振りながら私たちをあしらった。何にでもチャレンジしてみろ、なんて言っていたくせに、やっぱり大人は信用ならない。
「予算の問題ですか?」
一ノ瀬くんの隣で、私は核心を突いた。一瞬頬を引きつらせた先生が、そういう問題もある、と言葉を濁す。
「だ、第一、盛大な廃校式は一年前に済ませたんだ。今回は小学校の時と違って招待客も少ないし、卒業生も前回ほどは集まらないだろう」
「……それは、一ノ瀬くんにも伝えました」
「じゃあ余計なことを考えてないで、早く記念品作りに取りかかりなさい。一ノ瀬も、協力するのは構わないがあまり突飛な考えを持ち込まないでくれ」
ぞんざいな態度で教室を追い出された私たちは、廊下の片隅でどちらからともなく立ち止まる。
ほら、やっぱり駄目だった。
そんな言葉が、今にも口からあふれそうだ。
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