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「次は、もっと準備しなくちゃ」
「本気で言ってるの?」
「もちろん!」
「また……追い返されるだけだよ」
「だから、そうならない為に準備するんだ。先生の言ってることはもっともだし、熱意だけで動かせない問題もある。メリットデメリットを洗い直して、説得できる材料を揃えないと」
「……どうして」
零れた声が、わずかに震える。
「どうして、そこまでしてくれるの?」
一ノ瀬くんはまだ転校してきたばかりだし、学校自体に深い思い入れもないだろう。だからこそ、時間と情熱をかけて先生を説得する理由がわからなかった。
私は小学校の頃からこっちの広いグラウンドで遊ぶことも多かったし、理科の実験や家庭科での調理実習では中学の校舎を利用する事も多かった。年の離れた友達もいたし、何よりこの景色のすべてに思い出がある。
それは好きや嫌いで言い表すことができない、特別な感情だ。
「……どうして、か」
ぽつりと呟いた一ノ瀬くんが、誰もいない空き教室を見る。
「もう看板班は嫌なんだ」
「文化祭の……?」
「うん。理由は、それだけだよ」
真っ直ぐな彼の言葉には、確かな後悔と決意が滲んでいる。
里山中の生徒として、きちんと係に参加したいのだろう。
私はその力強さに惹かれながらも、一ノ瀬くんを信じ切ることができなかった。
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