第12話「不文律(前編)」

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第12話「不文律(前編)」

前日の疲れがでて、昼前に起きた。慌ててログインし、みんなと合流した。 「おそようございます。セイメイさん!」 少し冷たい目線でクリスはいった。 「おそよぅ…??」 俺がぼそっと言っているとユーグが口を開いた。 「『お早う』ではなく、『遅よう』という、いわゆる嫌味ですね♪」 ユーグは説明しながらドヤ顔でいう。  俺は少しドキッとして、少し申し訳なさそうにいった。 「そうか、すまんなクリス。まってくれてたんだな」 「今日は、メディオラム共和国の首都に行くんですよ!」  少しご機嫌斜めなようだ。 「そうか、昨日は国境越えたところでログアウトしたから、まだメディオラムの首都に入ってないのか。」 「早くいきましょう!」 クリスはいうと、俺の背中を押すのであった。  南下してきた部分でいくつ中継地点を経て、集落が点々とある程度で見えてきた先にあるのがロンバルドだ。  ~商業都市ロンバルド~  ここでは商業が栄えており、両替商や鍛冶屋・生活コンテンツのアイテムを購入できる、言わば、商店街アーケードと思ってくれればわかりやすい。数多く軒を連ねている。ここで荷物の整理や武器の修理などを行い、この国の首都へ入る事となる。町といっても中継地みたいな場所として大変利便性の高い街である。  俺らは近くのカフェテリアで食事をとった。  言い忘れていたが、イーリアスの食事はHP自動回復付与やクリティカル上昇などがあり、エリクサーより効果時間が長い。長い代わりに少し行動ができなくなる。その時間を使って雑談をするのだ。 【港町で食事していた海鮮丼は、スタミナ上昇・防御力上昇である。】  今回は、シーフードピザとあらびきウインナー、そしてリゾットだ。  あと白ワインを添えてあるので、効果時間延長も入る。  これ、リアルでもうまそうだなぁw  そういえば、このピピンとカルディアというやつら…。どんなやつらなんだ?  アイオリアと親し気に話してるが、俺らに敵意はない…。なくなったと表現した方が正しいかな?クリスがアイオリアをみている。そうだ、クリスに聞いてみよう。 「なぁクリス、あいつらは何者なんだ?」 「私も知りません。おそらく前のギルドの仲間なのようですけど……」  ほう、昔の仲間か。こりゃアイオリアの黒歴史を聞けるというわけか!  俺は、少し口角が上がった。  俺はアイオリアに近づき、話しかけた。 「おい、アイオリア。そいつらは何者なんだ?」  アイオリアが口を開こうとしたとき、ピピンという、亜人のアーチャーが話しかける。 「アイオリアは前のギルドでは、最強だったんだぜ??」 「へー、どんな感じ?」 「おまえ知らないのか?元エウロパのギルメンだぞ?」 「へ~。…は?」 俺は相槌をうった瞬間、驚いた。 「俺らも元エウロパなんだぜ?」 ピピンとカルディアが俺を見てニタニタ笑う。 「おい、なんだ?そりゃ!」 俺がいうと、アイオリアが二人を押しのけていう。 「我がマスターよ。何か誤解が発生しそうだからいうが、俺はもうエウロパのギルメン(にんげん)じゃあない。今は正式なオケアノスのメンバー(ギルメン)だ。それとこいつらはいつもの悪ふざけで茶化してるのだよ」 「どういうことだ?説明してもらおうか?」 俺はアイオリアに会話のボールを投げた。 「……まぁ、こればっかりは避けて通れない説明だな……。」  アイオリアは重い口を開いた。  俺がギルドを立ち上げて間もない頃だった。新進気鋭のエウロパは破竹の勢いで名だたるギルドを押しのけて這い上がってきたギルドだ。その中にアイオリアはいた。 「私がエウロパにいた頃は、今のギルマスではなく、前ギルマスの頃の話だ。私はその人と話がよく合い、一緒に旅をすることがあった。そんなころ、ギルドを立ち上げたいわば、立ち上げメンバーなのだよ。」 「そして、最大の功労者だよな?」 カルディアが差し込んできた。 「功労者?」 俺はよくわかっていなかった。 「おい、オケアノスのギルマスよ。“英雄”という名称は知っているだろ?」 「英雄は一騎当千の上だ。ゲームサポートもかなり優遇される。」  そう答えた。あとに俺は少し目をこすって落ち着いていう。 「あの英雄なの?」 「知らないのか??アイオリアは“英雄”なんだぞ!!」 二人は口をそろえていった。  英傑・英雄・一騎当千・豪傑とイーリアスは名声ボーナスというシステムがある。毎日、多額の報酬が皇室より支給されギルドを抜けてもそれは付与され続ける。智勇兼備のプレイヤーの称号の証である。 「英傑は知っているよな?いわゆる占領ギルドのギルマス専用の称号だ。サービス内容は英雄と同じだぞ?」 ピピンが少し煽りながらいう。 ―――このクソチビ、なめてんじゃねーぞ! 「ああ、知ってる。バカにすんな」 「ピピン、口が過ぎるぞ。マスターすまない」 アイオリアがいうと、ふんっといって横を向く 「マスター、私は英雄という称号を所持している。隠すつもりはなかったのだ」 「いや、別に……。驚きはしたがそこまでのプレイヤーだったとはな……」  話を聞くと、エウロパの現在(いま)を作ったのは前ギルドマスターとアイオリアと数名だそうだ。  今のギルマスは立ち上げメンバーではなく、途中から合流したメンバーらしい。ギルメンからの信頼が厚く、前のギルマスの引退からすぐに頂点に君臨したということだ。アイオリアが本来引継ぐはずだったらしいのだが、アイオリア自ら、器ではないということで辞退。  協議の結果、今のギルドマスターになったという経緯だった。  英雄の称号を得たのは、各拠点での戦果と生活コンテンツなどのポイントがのっかり、英雄になったのだった。 「コロッセオでよく一騎当千とかの称号や英雄とあるが、あれとは別なのか?」 俺はPvP特化のコンテンツを話をした。 「あれとは別です。あれはシステム上、身内でボーダーラインを意図的に超えることができるので、なんの名誉もありません。」 「まぁ、アイオリアは基本最初の初手で相手の先陣の出鼻をくじくのが大得意なんだよな!」  カルディアが腕を組んでアイオリアと目を合わせた。 「私は…、御大(前ギルマス)の夢の為のきっかけ作りでしかない。今は目標を半分失っている。」 「そうなの…か…?」 俺は下を向いていた。少し胸が苦しくなった。 「ギルドを抜けた理由はなんだ?」  俺はそこが気になったので聞いてみた。 「ああ…、いわゆる燃え尽き症候群っていうものでしょうね。前ギルマスが引退したショックが大きすぎてというのと、ギルドの雰囲気が変わったのが原因だと思います。」  アイオリアは空を見上げた。 ―――アイオリアもゲームを楽しめてるように見せかけて少しつまらなさを感じていたんだと。  でも、おまえ、痛いキャラを演じてまで虚勢を張らないとやってけなかったのか?そうか!!だから自分で英雄だとか、アテナだとか言い振り回して自分に枷をつけているのか??いや、彼にはもっと深い理由がありその感情がどうしようもなくて、無理やり蓋を閉じているのだ。そういうの、少しわかる気がする。 「なぁアイオリア。おまえはなんでうちに入ったんだ?クリスが理由なのかもしれんが、他にもあったのだろ?」 俺は少し突っ込んだ話をしてみた。 「まぁ…クリスもそうですが、ケブネカイゼの時のやり取りが正直で真っすぐだったのが印象ですね。」 そして、続けていう。 「あなたは…、上に立つべきである。」 アイオリアは真剣な表情で俺に言ってきた。 この言葉が俺を否応なしに現実にしていくことを知る由もなかった。
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