第13話「不文律(後編)」

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第13話「不文律(後編)」

「俺はそんなんじゃあない。それにある意味、世捨て人のようなものだ。」 「いえ、エウロパの前ギルマスのと雰囲気が似ている。それに性格が正直なのもある意味好印象である。それが理由です。」  俺はないないといい、少し黙ってしまった。 「カルディア、ピピンお前らは今どこに所属しているんだ?」 「うちは、DGだ。」 「俺はレオナルドだよ」 「そうか、おまえらオケアノスに来い。私はこのマスターを押し上げる。」 「おい、まじかよ!!??」 「まぁ落ち着けよ。アイオリア。こいつは俺に負けそうだったんだぜ?そんな奴が俺を扱えるのかよ?」  そうするとアイオリアが説明をする。 「職業別にいったら、相性は♀ストライカーが有利となっている。その上でカルデイア、お前がトドメを指せてない時点で五分なのだが??」 「タイマンなら勝ってたわ!!」 「PKのフィールドにルールなんて存在しない。あるのはヤッたかヤラレたかだ。タイマンのルールなんて公式戦以外なんの役にも立たない。本来ならお前らは私に返り討ちにあっていた。そうだろう?」 アイオリアは冷静に理路整然と話をしていった。  PKは、そう、文句がいえないのだ。負ければ負けたやつが悪い。『理由は弱いから。』ただそれだけだ。 仕掛けた方が悪いのではなく仕掛けられて、やられる奴が悪いというのがMMORPGの原理原則だ。タイマンだろうと複数だろうと。  それを何をとち狂ったのか騒ぐ奴がいる。それは違う。PKありきのMMORPGを選んで、やられる方が悪いのだ。それが嫌なら他に行け。これが“掟”なのだ。  雑魚は狩られる。発狂する。周りからはシステム理解しろと突っ込まれて黙る。好きなゲームとして選んでいる以上、強くなくてはならないと同時に対応力も求められてくるのだ。まさに『契約書の規約をきちんと読まずにあとになって文句をいうバカと同じ』なのだ。  そんなやつはごまんといるし、その後どうなったのかなんて知る由もない。 「わかったよ、アイオリア。だが、そこまで言うからには勝算があるのだろうな?」カルディアが疑ってかかる。 「勝算なんかあるものか!今は人数を埋めて即戦力強化だ。セイメイ殿という神輿を担ぐのだ。一人でも多い方がいいだろ?旧知の仲だ、力を貸してくれ。」とアイオリアはお願いをした。 「んーーーーー」とカルディアがうなる。 「あのさ、ギルドルールはどういうの?」とピピンがいう。 「ああ、うちはPK自己責任、ギルドクエストは自由。拠点戦・占領戦の際に招集できれば基本自由だよ」と俺はいった。 「え?ノルマとかないのか?いついつまでにAD(攻撃力・防御力)をあげろとか?」 「ないよ。リアルも大事にしてほしいからそんなことは決めてない。」 「むう…。自由というのはなんか不安だな~」とピピンはしかめっ面をしてそうにいう。  俺は少し考え方を整理し、話す事にした。 「これは俺が思う自由の定義なのだが、これは一個人の見解だ。一言でいうと、『自分自身に厳格なルールを持たせて、それに従うことこそが人の本当の自由だ。』と思う。」 「これが原則だと思っていい。」 「自由とは何にも縛られていないこと。たださ、100%の自由は存在し得ないのだよ。存在したら無法地帯になり人間の自由は損なわれる。まだそこでは自由じゃない。  ルールがあるからこそ人間はルールに守られ、幸せに生きている。  つまり今でいうと法律とか規約だな??必要な自由と不必要な自由は見極めなければならない。  何事においても自分本位でいいというわけではないのさ。あとさ、我慢ってあるだろ??これはシバリってやつだな。そのシバリから解放されたときに幸せという自由を得られる。  シバリの中でも何かを達成したときに幸せを感じることができるだろ?ゲームとかで難しいステージをクリアしたとかの『やったー!』という感情。つまり精神の解放だ。これ自由ね!!  精神の自由という論理は、文化やアイデンティティにおける地盤、実社会、政治背景、そのような各背景から抜け出したときに精神の自由を得ることができる。といわれている。  自由は幸せの一部分でしかなく、自由=幸せというわけでもない。」 「よくわかんねーし、もうちっとわかりやすく頼むわ!!!」カルディアとピピンは少しうなだれていた。  俺はもう一度噛み砕いて説明する。 「あーうんと、自由というのはだな!!自分の中の最低限というルール、倫理観とかマナーとかエチケットとか、そういう信念に近い価値観!!これが俺もお前ももっているルール!!それらをクリアにしたら、真の自由だってこと!!」 「まぁあれか!!一般的な自由の解釈でいいということか?」  ぽんとピピンが手を叩く。 「この理論での場合は、ちょっと違うけどそれも正解だわ!!んまぁ、ここでいう束縛というのは精神的束縛を指す。精神的束縛というのはここまではしなきゃいけない!この時点でルールが出来ている!真の自由というのはそれすらないってこと!!」 「ほへーーー」二人して声を合わせる。 「でも!!!その真の自由という解放の箍(たが)が外れてしまうと最初にいった無法地帯になって、お前も俺も自由じゃなくなって骨肉の争いになって、そもそも争っている場合じゃないだろ?ってこと。」 「あーお互いのテリトリーに入るからか?」カルディアがいう。 「そう!俺の言っている自由は大体、『一般的な常識の範囲での自由』って思って遊んでくれればいい!ということ!」 「自由ってこんなに壮大な意味だったんだね!」とピピンが関心をする。 「おまえおもしろいなぁ。教育番組でれるよ!!」とカルデイアが笑いながら感心していう。 「ああ、そうかい?ギャラいくらもらえるんだがねーー!!」  俺は自由という言葉を軽々しく言うやつが嫌いだ。なんでもできる=自由だと安易に考えているからだ。何でもできるってなんだ?おまえバカか?他人に迷惑かけて生産性のない行動、精神的欲求を選択したら、それは他人の自由を奪っているキチガイだ。PKが迷惑行為の一つに挙げられている要因の一つは、狩場争いとかではなく、ただ目の前のプレイヤーを殴るという行為そのものが、理解されないのだと思う。それは、道端で他人に殴りかかるようなイメージだからだ。  ゲームだとはいえ、人は理解しがたい行為について理解を得よう市民権を得ようなどというのは到底受け入れられないのだ。  ゲームだから好き勝手やる=やられても文句をいうなよ  じゃあそいう奴らにはこれが鉄則(ルール)だ。  自由だと軽々しくいうやつは大抵、自分がPKされると文句を言うのだ。そういう浅はかな奴を俺は知っているが、ただのわがままかまってちゃんだ。話す相手にすら値しないゴミだ。そういう奴がいうと虫唾が走るほどイライラする。  ーだまれゴミクズ!ー  と思いながら、無視する。そう、かまってちゃんには無視が一番いいのだ。  いじめ?馬鹿言うな。迷惑かけてきているやつを相手するほど俺はお人よしではない。  自由というのは人を騙す魔法だ。この世界に自由という定義が存在しているけども、みんな出る杭は打たれるじゃないが、足の引っ張り合いで世界の秩序は保たれていて、わずかな解放感で幸せを得ているのだ。  この世の中でいう自由といのは限定されたルールの上での自由だ。  これを履き違えてはダメなのだ。 「…。もうわかっただろ?セイメイ殿は信念を持っている。私も今挙げられた論理に同感した。」  アイオリアは二人に再度、話しかける。 「だからこい。また一緒に戦場を駆け回ろう。」 「んーわかった。意外にしっかりしてて感動したわ。」カルデイアは俺の顔をみていう。 「まぁ、アイオリアがいうんだから間違いないんじゃない?」とピピンがいう。 「よし、双方のギルドで脱退手続きを取ってくれ。入団に感謝する。」とアイオリアは二人を説得させていた。 「マスター。」アイオリアが今度は俺に話しかけてきた。 「俺は貴方を高く評価しています。だから、一緒に戦ってエウロパを倒しましょう!」 「おいおいおい、この戦力でいくのか?」俺は少しめんどくさそうにいった。 「大丈夫です。ここのギルド大きくしましょう!」とアイオリアは自信満々いった。  果たしてオケアノスは大きくできるのであろうか?  俺は少し物思いにふけることにした。  食事が終わり、出発の準備を終えて馬に跨り町を出るとあの二人が立っていた。 「おう、ヘッポコマスター!入団しにきたぞぃ~。」  とカルデイアがいっていたその瞬間に後ろから気配がした。ふと後ろをみようと振り向いたときに、白い影は目の前を過ぎ去っていった。  その影を追うように顔を向けると、カルデイアの顔をアイアンクロウをしているアイオリアが立っていた。ピピンは尻もちをつき、後ろに後退りをしていた。 「…、おまえら俺に恥をかかせるんじゃね~ぞ…!普通に挨拶しろや!ボケカス共が!!」  とアイオリアは一喝し投げ飛ばした。  俺は慌ててアイオリアに近づく。 「アイオリア、その辺にしとけよ。俺はなんとも思っちゃいない。」  アイオリアの肩を叩き宥める。 「たしかにカルデイアには負けていた。そう俺は負けていたんだ。だから俺はもっと強くならなければならんのだよ。勝った戦からはあまり学べない。負け戦だから学ぶことがたくさんある。それを糧に次に活かすのだと思うぞ?」  俺はそういうと、カルデイアの下にいき、手を貸した。そして、二人の間を取り持ち和解させ、俺は二人を正式的にオケアノスのメンバーに入れることとなった。  旅の仲間が増えたことはありがたい。  ソロモン・ユーグ・クリス・アイオリア・カルデイア・ピピン。  俺らの旅はまだ始まったばかりなのだ。  ~首都ロームレス~  神殿や歴史的建造物があるとされている町、それがロームレスだ。  なんでも、神様達がここをこぞって取り合ったとされている。PvP特化のコロシアムがあるのもここの国の統治下だ。  なんでも地盤の鉱石が建造物に最適な石ばかりだったため、ここに昔から住んでいた住民は景観を重視しまた小高い丘があるのでそこからの景色を非常に大事にしたという。建造物は全てバロック様式。最近は生活重視のプレイヤー達がロココ様式の建物にしてると聞く。  また治水工事がきちんとしてあるらしくところどころ、噴水広場がありプレイヤーの憩いの場がある。  別名:福音(エヴァンゲリオン)の街と言われている。  それはギルドが統治する席とは別に総本山、聖メシアの法王がここに君臨しているためである。  政治的支配力はないが、やはり宗教という設定を盛り込んでいるあたり、イーリアスの世界ではここに訪れる人々は後を絶たない。  まぁ俺は日本の神様が八百万の神々と知った時、この国は神々が多すぎて面白いと思った。一神教に対して、我々は多神教である。世界的に見れば、不思議なのだろうけど我々はモノに神が宿るとされているから、モノを大事にしろと教わる。我々にとってはそれが自然なのである。  こういうゲームをしていても、一神教でいかに国を統一しようと考えていたか、ファンタジーの世界でも伺える。まぁ世の中、いろんな神様を重んじるべきだよ。うん。宗教戦争でいいこと一個もなかったじゃん?なんで殺すの?そもそもそこよ!お前の信じる神様は殺していいとしてるの?どんなにムカつくやつでも法の裁きをしてやんなきゃな、周りが認めんよ。聖地は聖地で管理するしないでもめてるけど、お互いがお互いを管理するようにすればいいと思うよ。三すくみのジャンケンみたいにさ。宗教の話はよくわからんけど、まぁ中世のヨーロッパの影響を受けているのだけはよくわかるイーリアスの世界だ。  そんなこんなを考えていたが、ロームレスの街並みを俺らは見ていた。 「わーい!ここすごく可愛いデザインですよね?」クリスは思わず馬を降りて目を輝かせて動き回る。 「あれじゃあ子供と一緒だな?」と俺がいうと聞こえていたのかクリスが膨れる。 「子供じゃありません。可愛いものに目がないのです。男の子だってロボットとかに興味あるでしょ?それと一緒です。」とクリスはいうとまた街道を歩き回る。  ソロモンと俺は目が合い、やれやれといった具合だ。  さて問題は未だ解決していない。  まずは反エウロパ勢のフォルツァのギルマスに会って話をするとして、そこから力を借りてエウロパへの筋道を立てていくとしよう。とにかく、俺らは狙われなければいいのだからな。  俺はそう思いながら、ギルドマスターたちが集う元老院の建造物に向かい彼らに相談することとなった。
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