第3話「白夜行(後編)」

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第3話「白夜行(後編)」

「!!」  ユーグが馬から勢いよく飛び降りて剣を抜いた。 「マスター警戒してください!!プレイヤーが倒れている!!」 ふと、ユーグの乗っていた馬の片隅に人が横たわっていた。俺は慌てて馬上で弓を出した。 「ディアナ、ソロモン!警戒態勢!!ソロモンは範囲魔法の詠唱!ディアナはタカの目でサーチしてくれ!」  その人を囲むように馬を止める。 「もうやってる!見つからねー!!」ディアナはエルフ専用の長弓を引いて目を凝らしている。 「敵対冒険者の可能性は??」 「わからねーけど、可能性はある!こんなとこでPvP(対人戦)なんてやってる暇ねーんだけどなぁ!」 「ソロモン!範囲魔法の発動は即時可能か?」 「おいおいおいワシの詠唱速度はお主が一番よく知っているだろ?」    クソッ!こんなとこで対人狂と遊んでる暇は本当にない!!  ユーグは盾を前に出して防御スキルを発動させ、カウンターを出せる様にしている。  俺の弓はエルフほどの威力はないが、足止めぐらいはできる。  ふと、俺の後ろに氷のような冷気を感じた。  振り向きざまに馬上で刀を抜くと木の上から赤く光る二つ物体をみた。  そして目を凝らし薄っすらと腕に見える刺青。  あの刺青は…!アポカリプスの紋章!  そう、このイーリアスはどこでもPKができ、その分ペナルティも負うがアポカリプスギルドは、そんなペナルティなどものともせず、ただの殺人狂の巣窟だと噂で聞いている。 また、対人に特化した職が多く、忍者くノ一はもちろん、上位職のアサシンやバウンサー・魔女にネクロマンサーなどのデメリットを受けつつも、瞬殺に特化している職業を多く有する上位ギルド。 占領戦や地方の占領戦などでは、大手ギルドと共闘を契約し闇の請負業者と名高いギルドでもある。  俺らが狩場争いでPvPやるとかそういうチャチなもんじゃない。狙われたら最後、プレイヤーがこのゲームをログアウト・最悪の場合、引退まで追い込む。 サーバーチャットで煽ったり、地の果てまで探し当ててPKをし続けるというなんとも俺には理解できない行動だ。それと同時に思ったのは、噂を鵜呑みにするユーザー達もそうだが、今はその事実を自分の目の前で、目の当たりにしたような感覚に陥った。  赤い光が瞬きながら俺に語りかける。 「オケアノスのギルマスよ、最近勢いがあるなぁ。俺らのおもちゃリストに入れてやろうか?」と赤い光はにやりと笑いそうに言い放った。 「これはこれはアポカリプスさん、名高いギルドに弱小ギルドのオケアノスを潰して得はあるのかい?」 「得??カッカッカッ!!」赤い光は細めて声高に笑った。 「我々は損得よりも己の衝動がすべて。気に入らなければただ弄び、壊れるまで潰すだけよ!」 「ほう。ではここでの停戦に応じてくれはしないのか?道中急ぎの用事で今回はどうしても外せないのだよ。気分が良いのであれば、気分を壊す気はない。」 「くっくっくっ…!中々頭が回るギルマスだなぁ。俺がお前らギルマス以外すべて瞬殺できると讀んで言っているのか?」  俺はこめかみに汗をかいていた。 「情けないがそうだ。今、我々は成長過程のギルドでもある。うちはあなた方に今潰されても潰されなくても経営難なのだ。資金作りにギルドクエストを受けている。これに失敗すれば給料未払いで赤字経営そして、システムの仕様上、潰れていくことも可能性としてある。」 「フハハハハハ!これは面白いギルマスだ!!恥ずかしげもなく、己の恥辱を語るのか!」  赤い光は腹を抱えて笑うような声を上げた。ふとソロモンを見ると片手で別の“何か”をしていた。 「おまえは高い所から見下ろすのが好きなようだ!!バカは高い所を好むというが本当のようだな!!」ディアナは歯を食いしばっていたようだが、我慢しきれず言い返した。 赤い光は笑うことをやめ、戦闘態勢をとった。 「おい、エルフ。キサマが俺に勝てると思うのか?雑魚は雑魚らしくヘコヘコしていればいいんだよ!」  と言い放ち、右下から白銀に輝く光を放つ。俺はすかさず、ディアナの前に出る。 「あーすまんな。コイツは少し口が悪い。君のプライドを傷つけるつもりはギルドとしてはない!すまなかった!」  赤い光は輝く光を消した。 「なかなか話のわかるギルマスだな。今回は賢明な判断に免じて許してやる!だが次であったときは、談笑なぞ無しでいくぞ!」  そう言い残すと赤い光はパッと消え、少し離れてある木陰に息を潜めていた数名を連れて黒馬に跨り、走り去っていった。 「マスター、流石っすね!」 ユーグは緊張の糸が切れたように息を上げていった。 「よくわかったね?木陰に数名隠れていると!流石、マスター」 とソロモンは少し笑っていった。 「ソロモンは知っていたんだろ?だから、グラビティヘイズ(重力魔法)の詠唱を控えに入れてただろ?」 と俺は察したことを伝えた。 「ワシのアイコンタクト伝わったんか!さすが、我がマスターよw」 「今は戦ってる暇はないのに、ディアナが熱くなっちゃうんだもんw」 「だけど、あそこまでいわなくてもよくないか??あいつ…」 ディアナはしかめっ面でこちらを睨みつけてきた。 「まぁ…俺らは資金稼ぎが先だ、ディアナ。こういうとき感情に飲まれちゃいかんことくらい、君ほどの人間ならわかるだろう?まぁうちのギルドを思っての反抗だったのはわかるけどなwそれより、倒れたプレイヤーを救おう。」 そういうとユーグが慌てて近づき状態の確認をした。  みんな近づき、見てみるとどこにも所属していないプレイヤーのようだ。どうやら見た目は職業がヴァルキリーのようで、ヴァルキリーは聖職者である洗礼を受けている設定である。 個人のクエストでも♀ヒューマン限定でのヴァルキリークエストをちょこちょことこなしておけば、ヴァルキリーになれる。他職と違い、王国公認の聖メシアにおける熾天使セラフィムの加護を受けているため、街に戻らずともその場で復活できる。 ただ、その場合はプレイヤーが聖水を所持しシステム上で使えばいいわけだが、聖水は街のどこにでもある聖堂にいけば貰える。持ち合わせはなかったのか?どうしたものだろう。俺は自分用に用意していた“大いなる聖水”という上位の聖水を飲ませた。  上位聖水は錬金術で聖水と妖精の粉を混ぜて生成するものだ。初心者はこれが基本であり、最初のマニュアルを終えてすぐに教えてくれる最初のちょっとしたクエストである。無論、大量生産も出来て公正取引委員会の運営公認の取引所でアイテムの売買などで簡単に手に入れることも可能である。  そうすると彼女は息を吹き返し目を開け、周りを見たあと急に頭を下げはじめた。 「すいません!急に数名に囲われ攻撃を受けて、正義(ジャスティス)の啓示(エンスラー)を打ったのですが神聖力がレベル的にも装備的にもまだ駆け出しなのでほぼ無効化にされてしまい、このザマです。しかも、聖水使って逃げようとしても囲まれていたので逃げきれず、ダウン状態でぼーっとしてました。」  と、半べそをかきながら話した。  ユーグは照れ笑いしながら言う。 「俺も君と同じ途上のプレイヤーだけど、一人じゃ心細くない?一緒に強くなろうよ!」と勧誘まがいの言葉を入れて話かけた。 「マスターさえ許可をくれれば、この先の道中一人でも多い方が効率いいから一緒にいかないか?」  しかし、彼女は首を横にふった。 「わたしダメなんです。」 「前のギルドが初めてだったんですが、VCでもチャットでもイーリアスの話以外はダメだとか、漫画やアニメ、趣味の話などの雑談もダメだとかルールがあって守れなかったんです。」  ポカーン  …そんなにギルドルールって厳しくするものなのか???急に俺は寒気がした。  落ち着け…落ち着け。VCとかってワイワイやってゲームの話をしながら脱線した話して笑ったり、ディベートに突入したり結果、オチで笑って無意味な会話したりそういうのがゲームのVCじゃなかったのか?もちろん、ゲームの真剣なディスカッションはすべきだと思うが…。それだけしか話せないって窮屈だよな?俺が色々考えているとディアナがいった。 「そうか。じゃあ仕方ないな。それにうちは今、人を入れられる状況ではないんだよ。」 「そうなの?俺、知らなかった!」 ユーグは驚いた様子で目を丸くしていた。 「ワシらはギルド資金を集めるための旅だっていうのは察していたよ」 とソロモンはユーグの肩を叩いた。  彼女はうつむいてじっと話を聞いていた。  そう、ディアナのいっていることはもっともだ。ここで立ち止まっている暇なんてどこにもない。ここから離れて港町に入ってオーガ討伐作戦を立てたい。でも、楽しめないプレイヤーをみていると一緒に遊んで楽しんでほしい。と純粋に思ってしまう。  俺はお節介なのかもしれない。昔からそうだった。公園でも知らない子がいると話しかけて輪に入れてドロだらけで遊んでいたのを古い記憶から呼び起こして童心を思い出していた。 どうやら俺の心は決まっていたようだ。 「君、名前は?俺はセイメイ。オケアノスのギルドマスターだ。」 「わたしの名前はクリス、クリスティーナの方が正式なプレイヤー名です。」   おう。聖職者に相応しいというか、在り来たりだけど腹落ちする名前だった。 「やることがないのであれば、一緒にオーガ討伐にいかないか?こいつが倒せれば、君を雇い入れる資金はできるはずだ。ただ、君さえよければの話だがね。」 「…あ、はい。丁度ゴブリン狩りをしに行く予定でしたので、PT(パーティー)狩りなら一緒に行きたいです。」 「じゃあ決まりだ。クエストが終わるまでにギルドに入るかは決めてくれ。」  俺は馬に跨り、手を差し伸べて彼女を後ろに乗せて走った。 夜時間なのに一向に太陽が沈まない薄明状態。今回の天候は概ね晴れているようだ。  宿を取り、一息入れることとしよう。
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